顧客満足度は高いものの、業績向上につながらず悩んでいる企業は少なくありません。こうした状況で実施したいのはNPS®分析です。自社の強みや改善点を認識し、具体的な施策へ落とし込む戦略の立案に適しています。
NPS®とは
NPS®は、「Net Promoter® Score(ネットプロモータースコア)」の略で、顧客ロイヤルティ(特定のブランドや商品・サービスに対して感じる愛着や信頼)を測るための指標です。簡単に言うと、友人や家族などにどの程度推奨できるかという基準から、アンケートで商品やサービスを評価してもらい、それを数値化するものです。NPS®の分析により、自社の商品・サービスが「どのくらいの愛着や信頼を得ているか」を認識できます。業績との相関が強く、顧客の継続的な評価を知ることができ、企業の業績向上に大きく寄与する指標です。
NPS®の特徴
NPS®は簡単なアンケートの形式で顧客ロイヤルティを測るため、採用しやすい点が特徴です。「商品・サービスをどのくらいおすすめできるか」という質問に対し、0〜10の11段階で評価をつけてもらいます。「おすすめするorしない」の理由や要望なども併せれば、商品・サービスについて顧客が満足している部分と不満を感じている部分を把握できます。
また、11段階で評価する仕組みなので、誰でも分析しやすい点も特徴です。改善すべき点と維持すべき点を振り分けたり、改善点の優先順位をつけたりなど、効率的な施策を検討・実施できます。
NPS®と顧客満足度調査(CS)の違い
NPS®と「顧客満足度調査(CS=Customer Satisfaction)」は、どちらも顧客の満足度やロイヤルティを測る指標ですが、業績向上への有効性が異なります。
NPS®はシンプルな質問により、顧客の商品・サービスに対する満足度から改善点を認識し、継続的な改善につなげられます。顧客満足度と業績との関連性は高く、満足度の数値が上がると業績も比例して向上する仕組みです。
一方、CSは顧客の商品・サービスに対する印象を詳細にたずねるアンケート調査です。商品・サービスに対する細かな評価を得られるため、改善点の具体化には役立ちますが、数値化には課題があり、顧客の感覚に依存するため一筋縄ではいきません。また、設問や回答方法を個別に設定するため仮説立てには有効ですが、業績への直接的な影響を与えることは難しい面があります。
どちらも改善点を認識し、顧客体験を向上させるために役立つものの、CSでたずねる「満足かどうか」は、どうしても曖昧さを伴うものです。一方、NPS®はCSと異なり11段階の数値化が可能であるため、実際の業績との関連性をチェックできます。したがって、ダイレクトに業績向上を目指す場合は、NPS®の採用をおすすめします。
NPS®の計測方法:手順を解説
NPS®では、アンケートでデータを集めたうえで計算し、結果を分析するという手順を踏みます。
1. アンケートでデータを収集する
NPS®の分析には、データの計測・算出が欠かせません。母数が少ないと正確に分析できないので、統計的には400件以上のサンプルが必要です。また、可能であれば、Webやコールセンターでのアンケート、SNSなどから、より多くのデータを収集します。効率よく大量のサンプルを集めることに特化したツールの活用もひとつの手です。
まず、「あなたはこの商品・サービスを家族や友人におすすめできますか?」という質問の回答について、「推奨者」「中立者」「批判者」に分類し、0〜10のスコアを次のように分けて集計します。
- 推奨者:スコア9~10
- 中立者:スコア7~8
- 批判者:スコア0~6
推奨者は継続して自分が商品・サービスを利用したり、周囲の人やSNSなどでおすすめしたりする可能性があります。一方、批判者は自身で利用する可能性は低く、周りの人にもすすめることはないと考えられます。
2. スコアを計算する
次に、NPS®を次のように計算します。
NPS®=推奨者の割合-批判者の割合
NPS®は−100から100までの範囲で表されます。0以上が良好な評価です。NPS®の数値が業界のなかで優れているか、同業他社と比較して上回っているかを見て、業界での自社の立ち位置や顧客からの評価を分析します。
計算についての詳細は、関連記事を参考にしてください。
また、フリーコメント欄を設置するなどして評価の理由を問えば、顧客がどの部分に何を感じているかを詳細に認識できます。例えば、「推奨者は品質に満足している」「批判者は電話対応に不満を感じている」など、各顧客の傾向を示すことが可能です。
【注意点】日本ではスコアがマイナスになりやすい
分析する際に注意すべきなのは、日本人は中間の回答を選びがちだという点です。早稲田大学の木村達也氏は、日本人が個人主義の傾向が強い国とは対照的に、選択肢のなかで中間の回答を選ぶ傾向があることを紹介しています。
参考元:日本人消費者を対象とする顧客推奨度指標の最適化― NPS®からPSJ へ ―
NPS®は0~6のスコアを批判者に分類するため、日本で実施すると他国に比べてマイナスの結果が生まれやすいことになります。
つまり、マイナスになったとしても、そのことが直ちに「提供している商品・サービスに問題がある」という結果を示すわけではありません。スコアだけを見て判断するのではなく、競合他社との比較や、自社で実施した定期調査の過去の結果と比較して評価することが大切です。
NPS®スコアの目安
NPS®スコアを評価する際、「絶対NPS®」「相対NPS®」の2つの考え方があります。
- 絶対NPS®:すべての業界に共通する優良な商品・サービスを判断する基準と、自社NPS®を比較する考え方
- 相対NPS®:業界内の競合他社との比較において、自社NPS®を評価する考え方
絶対NPS®では、以下のような判断基準になります。
- スコア0以上=よい企業
- スコア50以上=優秀な企業
- スコア80以上=トップクラスの企業
一方、相対NPS®では主要な競合他社のNPS®と比較し、それに対して自社がどの程度優れているかを分析することが可能です。あるいは、自社のNPS®が業界平均以上であれば、業界内での競争力があると評価できます。
また、導入企業の業種や業界によってもスコアは異なることを念頭に置く必要があります。例えば医療や金融業界などでは、サービスを利用した顧客の得た結果は多様であり、顧客にとってよくない状態になることも少なくありません。そのようなネガティブな体験がNPS®の調査結果を左右することが考えられます。業種や業界の特性を考慮することで、競合他社との比較において、より正確な位置づけが可能になり、特性にもとづいた改善策を立てやすくなります。
NPS®スコア算出後の分析方法
調査データを分析する際に、「定性分析」と「定量分析」の2つが用いられます。定性分析と定量分析には、それぞれメリットがあり、常にトータルで行う方が望ましいとされています。
定性分析
定性分析はコメントや文章などの非数値化データを分析する手法です。定性分析では、アンケートで得られたコメントをトピックごとに分類し、その内容をさらに推奨者と批判者に分類します。商品・サービスの満足度に大きく影響している要素がわかれば、業績向上に重要なキーワードやテーマを抽出できる仕組みです。定性分析は、数値で判断する定量分析では捉えきれない、個別の具体的な要素を把握できます。
定量分析
定量分析はデータを数値に変換したものをもとに分析する手法です。定量分析の手法はさまざまですが、シンプルかつ扱いやすいものとして、「ドライバー分析」が挙げられます。「推奨度との相関」と「満足度」を軸にマッピングして、視覚的に把握し分析することが可能です。推奨度との相関と満足度が高い項目は「重点維持項目」、推奨度との相関が高く満足度が低い項目は「優先改善項目」と呼ばれます。これをもとに、改善すべきかどうかや、改善する場合の優先度の高さなどを判断します。
NPS®の活用の仕方
NPS®は自社の課題発見や強みの把握・維持などに活用可能な指標です。
自社の課題発見のために使う場合
自社の課題を発見することで、顧客満足度を向上させる施策を講じたり、業務プロセスを改善したりといった具体的な行動につながります。課題発見を有効に行うためには、定性分析と定量分析を組み合わせたうえで、NPS®分析における業界平均や市場動向と比較することが大切です。特に、低いスコアを与えた顧客である「批判者」のフィードバックをチェックすれば、自社の弱点や問題点を洗い出し、改善策を講じることができます。
自社の強みの把握・維持に使う場合
自社の強みを把握し、重点的に維持すれば、顧客のニーズに合った商品・サービスを提供できます。強みとして重点的に維持した方がよいものを見極めるには、高いスコアを与えた顧客である「推奨者」のフィードバックを分析する方法が有効です。これにより、顧客がどの部分に満足し、他社との差別化要因だと感じているかが明確になります。
また、高いスコアを与えたサービスは、顧客にとって特別なサービスであると判断できるため、優先的に発展させていくことが望ましいと考えられます。
NPS®活用のメリット
NPS®を業績向上にダイレクトにつなげるには、NPS®の活用メリットを社内で共有し、NPS®で得た顧客のフィードバックをもとに改善策や積極的な施策を打つ必要があります。NPS®の活用には次のようなメリットがあります。
他社との差別化をはかれる
NPS®は導入企業の数が多く、同業他社と自社の商品・サービスの比較を行いやすい点がメリットです。NPS®の値が同業他社に比べて高い場合、それは自社が優れた顧客体験を提供していることの証であり、競争優位性を確保していることを示します。逆に他社より低い場合は改善点を特定し、対策を講じる必要があることが明らかになります。NPS®を活用することで、自社の強みや改善すべき領域を客観的に把握し、それをもとに他社との差別化戦略を立案・実行することが可能です。
経営動向の予測につながる
NPS®を定期的に調査することで、リピーターやロイヤルカスタマーの動向を把握でき、その結果から経営動向を予測することが可能です。例えばNPS®のスコアが高く、リピーターやロイヤルカスタマーが多い場合、顧客が自社に強い信頼を寄せていることを示しており、収益の維持や経営の安定性が期待できます。この場合、顧客との関係強化やさらなる顧客体験の向上に向けた積極的な施策を講じることが可能です。
一方、スコアが低い場合は顧客離れのリスクがあるため、早期に効果的な対策を検討する必要があります。このように、NPS®を活用することで経営の安定性や将来的な成長可能性を予測し、戦略的な意思決定に役立てることができるのは大きなメリットです。
新規顧客の獲得につながる
NPS®分析は顧客への的確な理解につながり、ロイヤルカスタマーを創出・維持できます。これにより、新規顧客の獲得にも貢献します。ロイヤルカスタマーは、自社の製品やサービスに強い愛着を持ち、積極的に口コミや紹介を行ってくれる存在です。例えば顧客が自らの体験をSNSやレビューサイトでシェアすることで、新たな顧客が興味を持ち、自社の商品を試すきっかけになります。このような口コミ効果は、広告費用をかけずに新規顧客を獲得する手段として非常に有効です。
継続した自社分析につながる
NPS®分析を定期的に行うことで、自社の商品・サービスの評価を継続して把握できるのもメリットです。具体的には、スコアを時系列で追うことで、どの施策を実施した際にスコアが向上したのか、逆にどのような状況やサービスが顧客の不満を引き起こし、スコアが低下したのかを観測できます。このようなデータをもとに自社の強みや改善点を明らかにすれば、適切な打ち手の検討や修正に役立てられます。
また、NPS®のスコアを上げることを心がければ、結果として商品・サービスの品質や企業の業績を向上させることにつながります。スコアを上げる方法については、次の章で解説します。
NPS®スコアを向上させる3つのポイント
NPS®のメリットを社内で共有できたら、スコアを上げるための具体的な取り組みを実施します。ポイントは以下の3つです。
1. 顧客の声を基にした改善結果を示す
商品・サービスに対するネガティブな意見を含む顧客の声を、できるだけ施策に反映させることがスコアの向上につながります。企業は、批判を踏まえた改善を行っていることを、顧客に対して積極的に伝えることが必要です。顧客からのフィードバックを真摯に受け止め、それに基づいて実施した改善策を顧客に明示することで、企業への印象が向上します。顧客は自分の声が大切にされていると感じ、企業に対して信頼感を抱くようになります。
この信頼感は、顧客がロイヤルカスタマーへと変わる重要な要素です。信頼感を抱いた顧客は企業の商品やサービスに対して忠誠心を持ち、リピーターとして行動するだけでなく、ほかの顧客への積極的な推奨にもつながります。その結果、NPS®スコアのさらなる向上が期待できます。
2. NPS®の設問は定期的に見直す
NPS®は継続して行うと同時に、設問の内容を定期的に見直し、改善することも必要です。ただ多くのアンケート結果を集めるのではなく、顧客の期待値や価値観を的確に把握できる質問を行わなければなりません。例えば自由記述の回答欄を設けることで、顧客が感じている具体的なニーズや不満を深掘りし、より明確に把握できるようになります。また、過去のアンケート結果を分析し、回答の質が不十分だった設問については内容を見直し、改善を行うことも重要です。
こうした定期的な見直し作業を通じて設問の質を高め、より信頼性の高いデータを得ることで、NPS®スコアの向上につながります。
3. 定期的な分析と改善を行う
NPS®スコアを上げるためには、定期的な分析と改善が欠かせません。NPS®では、自社のよい部分・悪い部分が明確になるので、悪い部分を直していけば目標に近付いていくはずです。
また、定期的な分析によってトレンドや傾向を把握し、現場へのフィードバックを行う際の優先順位や改善点を調整していくことで、常に業績向上に必要な施策を打てます。
なお、定期的な分析には、効率よくサンプルを取得する必要があるため、顧客の意見や評価、要望、アンケート結果などを指すVOC(Voice of customer)の活用がポイントです。目標管理ツールや目標管理フレームワークなどのツールを用いて、より明確な目標を設定し、効率的な分析を行う方法もあります。
まとめ
顧客ロイヤルティを測るNPS®は、企業の業績向上に不可欠です。NPS®を計測・分析することで、自社の強みや課題、業界内のトレンドや立ち位置などが明らかになり、それらをもとに改善策を考案できます。その結果、ロイヤルカスタマーの創出と維持につながり、収益を安定・向上させることが可能です。
NPS®を測るためには、多くのデータを集めることが欠かせないので、ツールなどを用いた簡易アンケート(VOC)が役に立ちます。ベルシステム24が提供している「BellCloud+」は、テキストマイニングを活用したVOC分析や顧客の感情解析を採用しており、コールセンターを用いたNPS®計測・分析をおすすめします。
*Net Promoter®およびNPS®、Predictive NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズ(現NICE Systems,Inc)の登録商標です。
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