AIサービスはビジネスの成功を後押しする有益なツールである一方、安全性や信頼度などが問題視されています。そこで近年関心を集めているのが「責任あるAI」です。本記事では、AIの利活用を考えているコンタクトセンターの運営者・経営者に向けて、責任あるAIとは何か、なぜ注目されているのかなど、「責任あるAI」について詳しく解説します。
責任あるAIとは?
責任あるAIとは、AIの利活用に伴う、潜在的なリスクの解消に企業や組織が責任を持って取り組み、作成したAIの安全性や信頼性を確保することです。広い意味では、AIの安全性や信頼性などを確保する目的で実施する活動の指針や基本原則も責任あるAIに含まれます。
ビジネスにAIを導入すると多様な業務課題の解決を図れるものの、企業がAIに意思決定をゆだねることには、意図せずにセキュリティやプライバシーなどの重大なリスクにつながる可能性があります。万が一、倫理観や信頼性が欠如したAIシステムの決定をそのまま利用すれば、AIサービスを利用する企業だけでなく、AIサービスを提供する企業や開発企業、さらには顧客や社会全体にも大きな悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため、AI開発に関わる企業はもちろん、AIに関わる企業はAIを適切に扱う責任が求められ、その責任を持って取り組む際の指針こそが責任あるAIです。
さらに社会でAIを最大限利活用するためには、規制や法整備も欠かせません。現在、日本政府ではAIの安全な利活用を推進してリスクの最小化と利益の最大化を図るために「責任あるAI推進基本法(仮)」を提唱し、明確なルール作りを目指しています。
参照元:責任あるAIの推進のための法的ガバナンスに関する素案
AI倫理
AI倫理は責任あるAIとの関係性が深く、安全・安心なAIサービスの活用を推進するにあたり、理解しておきたいキーワードのひとつです。AI倫理とは、AIの活用によって人権を侵害したり、社会に悪影響を及ぼしたりする事態を回避するための守るべき原則やルールのことです。ただし、AI倫理は法律とは異なり、AIサービスを開発・運用する企業が独自で指針を定めるため、内容は企業ごとに異なりますが、基盤となる部分や方向性はほぼ同じです。
AIガバナンス
AIガバナンスとは、AIサービスの利用や開発を倫理的な観点や法的基準に沿って管理・制御して、社会や個人に追わせるリスクの最小化を図る仕組みです。AIガバナンスを検討する際には、対象となるAIサービスの利用・開発によって生じる多様なリスクを分析する必要があります。その上でAIガバナンスに関する施策のゴールを明確化して、管理システムの全体像を設計するのが基本的な流れです。
有効に機能するAIガバナンスを設定するには、企業文化や業界の慣習も踏まえた上で、自社に合う内容を検討する必要があります。また、設定したAIガバナンスにはAIサービスを利用・開発する部門のみではなく、経営層やリスク管理部門も連携し、取り組むことが重要です。
参照元:AI 事業者ガイドライン案
責任あるAIが注目されている背景
責任あるAIが注目されている理由は、生成AIによる情報漏えいや権利侵害、誤情報の拡散などの問題が多発しているからです。
しかし、生成AIが事故やトラブルを招いたとしても、AI自体に責任をとらせることは不可能であり、損害賠償も対応できません。そのため、一般的にはAIに携わっている企業の責任になるケースが多いです。
また、内容や影響範囲によっては、利用者や開発者・製造者だけでは責任がとりきれず、社会的課題となることもあります。
こうしたリスクを最小限に抑えるために重要となるのが、責任あるAIです。責任あるAIを導入することで、AIシステムの信頼性を担保でき、企業はリスクを最小限に抑えつつAIを最大限に活用可能となり、社会に対する責任も果たせます。
責任あるAIの基本原則
責任あるAIの基本原則の詳細は、企業によって異なるものの、以下の5つを中心にAIを構築します。
公平性・包括性
AIサービスを開発・利用する際には人種・性別・民族・地域などによる差別を排除し、すべての人を公平に扱う必要があります。不公平な扱いを回避するためには質の高いデータを収集・選定して、AIが生み出すバイアスを防ぐことが不可欠です。
また、AI技術の恩恵を特定の人のみが受けられる状況は、望ましいとは言えません。AIサービスを利用する際には経済的事情や職業に関わらず、すべての人が恩恵を受けられる環境を整備する必要があります。
プライバシー・セキュリティ
AIサービスを利用・開発する際には、プライバシーの保護やセキュリティの強化を十分意識し、責任を持って取り組むことが必要です。具体的には、必要なデータのみを収集して活用する、暗号化技術を活用して情報漏えいを防ぐ、 データ権限を設定するなどの対策をしてAIを構築します。
透明性
AIサービスの「透明性」を確保することも求められます。具体的には、AIの情報収集プロセスや意思決定などの動作、内容が誰にでもわかるようにし、透明性を高める取り組みが必要です。
AIの透明性を維持できれば、不公平なバイアスの排除や個人データのプライバシー保護に貢献できます。また、AIサービスの利用中に万が一、事故やトラブルが発生した際にも経緯をたどって原因を特定でき、関係者への明確な説明が可能です。
説明責任(アカウンタビリティー)
責任あるAIにおける「アカウンタビリティー」とは、すべてのステークホルダーに対する説明責任です。AIサービスの開発者はAIが行うすべての行動・判断に対して責任を負い、ガバナンスと倫理の観点から必要な情報を関係者に説明し、納得を得なければなりません。
信頼性と安全性
責任あるAIでは、どのような状況下でもAIサービスが設計通りに動作し、適切に応答できる「信頼性」や「安全性」も要求されています。信頼性や安全性を確保するには、リリース前の十分なテストと検証が欠かせません。
また、AIサービスの信頼性や安全性は時間の経過によって低下する可能性があります。AIサービスを活用する際には継続的なモニタリングやモデル追跡により、トラブルを防止する取り組みが必要です。
コンタクトセンターと責任あるAI
コールセンター業界では、消費行動の変化や顧客接点のデジタル化を受け、業務が複雑化し、さらに人材不足やオペレーションのスキルの差など、さまざまな課題を抱えています。
このような課題を解決する方法として、近年、注目されているのがAIの活用です。たとえば、顧客の問い合わせ対応をチャットボットに任せることで、業務を軽減でき、人材不足の解消にも役立ちます。また、AIにオペレーターの対応サポートをさせれば、業務経験にかかわらず、質の高い対応が見込め、顧客満足度の向上につながります。ほかにもAIを導入することで、データ分析による業務改善や緊急事態時のBCP対策などが期待できます。
ただし、コンタクトセンターでは、多くの個人情報を取り扱っており、AIサービスを導入する際には自社としての「責任あるAIの基本原則」を制定し、十分なセキュリティ・プライバシー対策をとることが重要です。
コンタクトセンターにおけるAIサービスの活用方法や導入メリットについて詳細を知りたい方は、以下のページから資料をダウンロードしてください。
まとめ
責任あるAIは、AIサービスの安全性や信頼性を維持・確保するために必要な取り組みです。コンタクトセンターでAIサービスを導入する際には自社としての「責任あるAIの基本原則」を制定し、安全・安心な利用を推進しましょう。
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