生成AIを活用したプロダクト開発

 2024.09.06  倉橋 一成 氏

私は 2011 年に iAnalysis 合同会社を設立し、データ駆動による経営コンサルティングに従事してきました。現在は2023年にAI-DataScience株式会社を新たに設立し、生成 AI を活用したSaaS開発に取り組んでいます。この記事では、私の起業体験を踏まえ、生成 AI を活用したプロダクト開発の考え方を紹介したいと思います。

生成AIを活用したプロダクト開発

生成AIがもたらす革新と可能性

会社設立の経緯

私は、東京大学大学院医学系研究科で医療分野の統計学に関して研究し、保健学博士を取得しました。博士論文は遺伝子データや健康診断データの分析や機械学習・AIに関する内容です。
大学卒業後は、東大病院の情報システム部に助教として勤めてITやエンジニアリングについて学びつつ、医療以外の分野でもデータ活用のコンサルティングを提供するため、2011年にiAnalysis合同会社を設立し、3年で23業種44社にサービス提供を行いました(うち16社が一部上場企業)。特に株式会社NTTドコモに重点的にコンサルティングを行い、ユーザーのLTV(Life Time Value)を計算する仕組みを構築しました。また、クレディセゾンでは不正検知の新たな手法を発見し、年間約25億円の不正防止に貢献しました。

その成果が認められ、2023年までCDO(Cheif Data Officer、最高データ責任者)として会社全体のデータ活用の監修を務めました。同時期に高砂熱学工業の顧問となり、DXやデータ活用全体を把握し、経営陣に対して現在もアドバイザリー活動を行っています。また、本業のコンサルティング以外にも、データ活用を広めるためのセミナー活動やシステム開発、データサイエンティスト協会の立ち上げといった活動にも従事してきました。

その後はサービス提供先を絞って支援し、仕事量をおさえてアーティスト活動に注力し、油絵で海外の展覧会に出展したりパリで個展を開いたりという時期を経て、2023年11月にAI-DataScience株式会社を新たに設立しました。二度目の起業に至った理由は、生成AIの発展に伴って、デジタル化やAI化による人材不足解消や業務効率改善にビジネスチャンスを見出し、自分のこれまでの活動や実績を、再び社会に役立てて豊かな社会創りに貢献したいと考えたからです。

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AI-DataScience株式会社の紹介

私が2023年11月に起業したAI-DataScience株式会社は、「AI とデータで社会課題を治療して進化させる」をミッションとして掲げています。前回起業したiAnalysis合同会社は私のコンサルティング活動が中心でしたが、今回の起業では生成AIを活用して、SaaS(Software as a Service)を多数開発・展開することを目標としています。

CTOを務めるのは、フランス出身のパティノー・フランソワです。彼は、ウェブ系のシステムを多数開発してきた優秀なエンジニアで、私と10年以上の付き合いがあります。そのほかにも、元内閣参事官でセキュリティ分野の専門家の方が技術顧問に、三菱商事元執行役員の方がアドバイザーに就任していただくなど、国内外から多くの優秀なメンバーの参画・支援が得られていることも、前回の起業時との違いです。

資本政策については、設立から2か月後の2024年1月に独立系VCのEast Ventures株式会社と、連続起業家で第二電電(DDI、現KDDI)を共同創業した千本倖生氏から計2,500万円の出資を受けることができました。

会社名:AI-DataScience株式会社
HP:https://ai-dscience.com/
プレスリリース一覧:https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/133761

医師診療支援AIサービスCuralumi(キュラルミ)の紹介

当社が最初に開発したのは、診療前に患者の症状をAIに相談し、医師や医療従事者の負担を軽減するサービス「Curalumi(キュラルミ)」です。私のデータ分析の原点が医療分野にあり、また人手不足や働き方改革の必要性が高くDX の余地も大きいと考えたことから、医療分野を事業開発のターゲットとして定めました。

キュラルミの特徴は、既存の診療補助システムに多くみられるプリセットの選択肢形式ではなく、自由記述でAIに相談することでリアルタイムで回答が返ってくる点で、特許も取得しています。私の個人的な経験からクリニック受診時に問診票やシステムに入力した情報がうまく医師に伝達されていないように思えたことや、他の業種に比べて待ち時間が格段に長いことにユーザーとしてペインを感じていたことから、このシステムを着想しました。

他のプロダクトも同時進行の中、構想から3か月でAIの基本機能を開発し、4か月目には特許を取得、6か月目でβ版公開に至っています。この開発スピードが、AI-DataScience株式会社の強みとなっています。

キュラルミに関するプレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000133761.html

プロダクトの構想を具体化するためのポイント

キュラルミが僅か6か月でβ版公開までたどり着けた理由は、MVP 開発と生成 AI の活用にあります。キュラルミの開発においては、RAGなどを使わず、公開されてる生成AIのプロンプトチューニングで作業を進行しました。プロンプトはわずかな書き方の違いでAIの回答が全く変わるため、医療現場での利用に耐えうるクオリティの回答ができるAIを開発すべく、微調整を重ねて試行錯誤を行いました。

開発については、生成AIの普及により、それ以前より開発のハードルは格段に低くなっていると感じます。まずは最小単位で開発をはじめ、アジャイルに対応することでスピード感を損なわないことを意識しています。具体的には、MVPでプロダクトをリリースし、プロトタイプをユーザーに使ってもらってヒアリングを重ねることで、より現場で必要とされるものに仕上げていきます。

「プロダクトアウト」のプロジェクトでは、優秀な開発陣が高い技術でプロダクトを仕上げたとしても、ユーザーにとっては使いにくい、あるいは必要のない機能が多く実装されたものが仕上がる場合もあります。ウォーターフォール型の進め方とも呼ばれており、そのような進め方のDXのうち6割が失敗するとも言われています(JUAS調査)。一方で、MVPやアジャイルによる進め方(「マーケットアウト」)は、マーケットのペインやニーズから開発の出発点とします。本当にユーザーが求めていることを機能として追加することができ、ユーザーの課題に対して広く対応できる製品が仕上がると言われています。

このとき注意しなくてはならないのは、すべてのユーザーのニーズに応えようとしないことです。「ユーザーは嘘を付く」とも言われており、本当に必要なものが何なのか、ユーザーも分かっていない場合が多々あります。例えば、マクドナルド社が新商品のアンケートを行ったとき、ユーザーは「ヘルシーで体に良いものを食べたい」と答えました。マクドナルド社は、その通りにサラダの新商品を開発して販売しましたが、実際には売れませんでした。ユーザーはジャンキーなマクドナルドが好きだったのです。

デジタル分野での商品開発でも、ユーザーの声を聞きながら、本当に課題解決ができる機能が何なのか、しっかり考えないといけません。

医療分野以外の領域におけるプロダクト開発の展開

開発進度としてはキュラルミが最も進捗していますが、当社は医療分野に留まらず、社会のあらゆる場面でSaaSを活用してDXを推進することを目指しています。

現在開発が進行している「AI電話」についても、簡単にご紹介させていただきます。AI電話は、コールセンターを運営する企業からの要望を基に開発が開始されました。事前に読み込ませたトークスクリプト無しで自律的に入電に対応できるAIを開発し、コールセンタースタッフの負担軽減に貢献します。

自由記述の相談内容に対して回答を行うという意味では、前述のキュラルミを技術的に応用したもので、更に音声認識という新たなハードルに挑戦しています。事前にシナリオを作って音声対応させることには成功しており、生成AIを利用した自由形式の対応も近々完成する予定です。

まとめ

私は「AI とデータで社会課題を治療して進化させる」というミッションのもと会社を設立し、経歴が活かせてDXによる業務改善の余地が大きいと考えらえる医療分野からスタートし、MVP 開発と生成 AI の活用により6か月という短期間でプロダクト化を実現できました。また、今後はAI電話など、他分野への横展開にも注力していきます。

皆様のAI関連のビジネスの企画や開発において、私の経験が一助となれば幸いです。AIとデジタル化を加速してより豊かな社会を実現するために、弊社との協業をお考えの際は、ぜひ弊社HPや問い合わせメールアドレスからご連絡をお待ちしています。

執筆者紹介

倉橋 一成 氏
倉橋 一成 氏
AI-DataScience株式会社
代表取締役

東京大学で統計学の博士号を取得し、東京大学医学部附属病院助教を経て、2011年にiAnalysis合同会社を設立。大手企業を中心に、自動車メーカーや広告代理店など23業種44社にデータ駆動の経営コンサルティングを提供。大企業数社で利益が100億円以上増加。
現在は、2023年に新たに設立したAI-DataScience株式会社で、顧客のニーズや社会課題に寄り添ったAI/SaaSの企画・開発・運用に挑戦しています。
HP: https://ai-dscience.com/
mailto: contact@ai-dscience.com
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