組織力向上や社員のスキルアップを目指し、ナレッジマネジメントを進める企業が増えています。ナレッジマネジメントの基本的な考え方は「言語化が難しいノウハウや経験(暗黙知)を、誰もが理解できる情報(形式知)に変える」ことです。
誰がどんな知識や経験、知見を持っているかが可視化されており、誰もが理解できるようにマニュアルなどで形式化されている状態になっていることは理想ではありますが、実践するのは難しいと感じられる方も少ないと思います。
この記事では、BPRでナレッジ整備を行った事例をもとにBPRの手法や有用性について解説します。
ナレッジマネジメントの必要性と課題
ナレッジマネジメント(Knowledge Management)とは、従業員個人が持っているナレッジ(知識)を組織内で共有・活用して、組織全体の生産性向上やイノベーションの創出を促進するための管理手法です。組織に属する方がノウハウを組織内全体に共有することで知識の属人化を防ぎ、生産性を高めます。英語では「KM」と略されることもあります。
なお、日本語で「知識経営」や「知識管理」とも呼ばれます。
1990年代初頭、経営学者の野中郁次郎氏による著作「知識創造企業」のなかで、「組織的知識創造理論」と「SECI(セキ)モデル」が提唱されたことで、ナレッジマネジメント(知識経営)という概念が広く知られるようになったと言われています。
ナレッジマネジメントにおけるナレッジには、従業員の持つノウハウやスキル、データなどが含まれます。
これらのナレッジは「暗黙知」と「形式知」の2つに分類されます。
ナレッジマネジメントを実践していくうえでは、個人が持つ暗黙知を形式知へと変換し、組織全体で共有・活用していくことが重要となります。
従来多くの国内企業では、ベテラン従業員の知識やスキルを次世代に受け継いでいくことで人材育成を行っていました。マニュアル化の難しい技術の継承は技術の流出を防ぎ、強みの一つにもなっておりましたが、人から人への技術の継承には膨大な時間がかかります。また、近年では人材不足が深刻化しているほか、転職する人も増えており、企業の情報資産の蓄積は急務となっています。
このような課題を背景として広まったのがナレッジマネジメントです。組織全体で知識や技術を共有する仕組みを作ることで、知識やスキルの継承を確実かつ短期化・高密度化できます。ナレッジマネジメントを実践し続けることで、新たなイノベーションが促進され、企業価値の向上も期待できます。
ナレッジマネジメントは、知識として伝達が難しい「暗黙知」を誰もがわかるように「形式知」へと変換して組織内で共有し、業務に活用することができます。暗黙知を文章や図表、数式などを用いて言語化・マニュアル化することで、組織全体での知の蓄積・共有を目指します。
そして、この「暗黙知」を「形式知」にする手法としてBPRが非常に有効です。
ナレッジマネジメントにも有効なBPR
ナレッジマネジメントにBPRがどのように有効なのでしょうか。
BPRのメリットの一つに「属人化の防止」があります。
長く業務を行っていると作業が属人化してしまい、特定の人しか担当できないとされる業務が発生することがあります。BPRによって業務プロセスを見直すことでこれらの属人化した作業を標準化することができます。業務を誰もが行えるようになれば、担当者の不在による業務停滞のリスクを避けたり、一部の人に偏っていた業務負担を解消できたりといった効果が期待できます。業務フローの全体像を見通せるようになるため、社員個々の業務量を把握して適宜業務量の最適化を図ることができ、残業時間削減、休暇取得の促進などの対応も容易になることによって、従業員満足度も向上することが期待できます。
BPRの実施により、現状の業務フローの全体像が可視化されます。可視化されることによって、これまで気づくことができなかった作業の重複や、作業のムダ、あるいは作業の非効率な部分が明らかになってきます。
このようにして明らかになった課題となる部分をあるべき進め方に見直すことによって、業務の進め方が最適化されていきます。
業務の全体像が可視化されることにより従業員個々のスキルも把握することができます。Aさんはできるけど、Bさんはやり方を知らないなど、業務の属人化状況も可視化されます。
業務の全体像の可視化には現状分析という手法を活用します。現状分析では業務の現状とあるべき姿のGAP、すなわち課題を抽出します。この現状分析のプロセスが非常に重要であり、時間も労力もかかる工程でもあります。
具体的には可視化を行うプロセスのレベルを設定して、必要な情報を収集していきます。
大枠からブレイクダウンしていくように整理を進めます。
- どんな機能なのか
- その機能の中ではどんな活動が行われているのか
- その活動の中で行われるタスク、個別作業にはなにがあるのか
- そして、その作業を進めるために必要な手順は何か
これら収集、整理した情報をドキュメント化していきます。
ここでは、単にマニュアルなどの資料や実績データなどからビジネスプロセスの内容を把握する、ということだけではなく、実務担当者へのインタビューによる実地調査を行う必要もあります。なぜその業務を行う必要があるのか、また、なぜそのプロセスで行うのか、といった背景、それから、現場で起きている問題を確認するためです。
例えば、組織をまたいだ業務の場合に、受け渡しの時に非効率なプロセスが発生している、あるいはチェック工程の増加、運用変更にシステムが対応しきれておらず、その運用に合わせるための追加作業が発生しているなど、過去の経緯から、個人ごとに認識している定性的な情報、これも把握して資料やデータと照らし合わせて現状分析することで現状の理解はより深まります。
また、担当者毎のスキル差異などを明らかにすることで属人化している理由を確認することも可能です。例えば誰がどの業務をどの程度まで実施できるのかなど、個人のスキルを整理しスキルマップのような形で可視化することによって問題の特定をすることができます。
BPRを実現するプロセスの中では、この現状分析がプロジェクトの取組み自体の成功を左右してしまう、最も重要な工程です。
まずは、抜け漏れなく現状を把握・分析し、課題を明確化した上で、その課題に対する最良の打ち手が何なのか?それを検討することがBPR実現の成功への第一歩でもあり、ナレッジマネジメントの有効な手段となり得ます。
BPR実践事例にみるBPRの有用性
ナレッジマネジメントでは「暗黙知」を「形式知」に変換していき、スキルを平準化していく必要があります。そのためには現状分析によって業務全体を可視化、把握し、マニュアルの整備状況や従業員個人ごとの認識を確認していくことが重要です。
ここからは実際にBPRによってナレッジマネジメントを実現した事例をもとにBPRの有用性についてある企業の営業部門のベルシステム24によるBPR実践事例をもとに解説していきます。
対象の営業部門では受注した案件の納品物を用意することに営業担当が追われていた部署がありました。営業と企画部門の担当者が3名から4名の体制で納品物の管理も行っていましたが、その納品物の管理を行うチームが運用やフローが煩雑であったり派遣社員のメンバーの入れ替えが発生しているなど属人化したりナレッジが蓄積しにくい状況にあるということに問題を抱えていました。これからさらに受注量を増加させていきたいという構想もあり、そのための体制づくりもあわせて進めていきたいと考えていました。
まずはインタビューを通してナレッジの状況や担当者のスキル状況など現状分析を行っていきます。実施している業務を洗い出し、ナレッジの整備状況や業務の管理状況などを調査していくと、業務品質や稼働が不安定であることが明確になり、業務の管理体制に特に課題があると特定できました。
必要なマニュアル類の整備やあるべき管理体制を構築することから着手し、派遣社員が入れ替わることによる、営業担当者が監督する手間や工数がかかっているという状況に対しては、専門的に対応できるようBPOによる業務委託に切り替えることも進めました。
抽出した課題を解消しつつ、ベルシステム24で業務を委託することによって、結果、営業職や企画職の社員の方3名から4名の方が本業である営業活動や企画業務に注力することができるようになりました。時間数にして月間550時間にもなる時間を本業に充てられるようになり、 単純に人工を増やすということだけでなく専門的に管理を行うことによって業務改善やナレッジの蓄積などもできるようになっています。
この事例のポイントとしては、描いたプランを実行するだけでなく継続的に見直す仕組みを組み込めた点です。 営業や企画にご担当者様が専念できて終わるのではなく、業務委託によってより効率的にそして納品物の高品質化を目指すことで営業や企画でのコア業務に還元していくことができています。営業部門は顧客から求められることが変化したり、達成度合いに応じての営業方針が変更になるなど、特に変化に適応することが求められる部署です。一度描いたプランに対して実行してみての気付きを描いたプランに反映させつつ、変化に対応していくことが非常に重要です。
このように現状分析によって課題を抽出し、解決策の一つとして一部業務をBPOとすることで属人化を防止するとともにナレッジの蓄積を図ることも可能となります。今回はナレッジマネジメントの手法がBPOでしたが、ナレッジの整備状況やナレッジの活用において適切な手法は何か、を判断するうえでBPRは有用と言えます。
BPRの実現には第三者の視点が必要
ナレッジマネジメントにはBPRが有用であり、特に現状分析による現状が把握が重要です。
現状分析には単にマニュアルなどの資料や実績データなどからの把握だけではなく、実務担当者へのインタビューによる実地調査を行う必要もあります。そしてそれら分析結果をもとに課題を抽出して業務改革のプランを策定してきます。
この工程においては偏った解釈をしないことが必要であり、第三者視点で俯瞰して業務プロセスを可視化するスキルとノウハウ、その可視化作業に伴う膨大な工数、講じる手段が業務の効率化や工数削減に繋がるものであるかの仮設立案・検証を行うための実績や経験も必要となり、現状の体制から実行する体制を構成しようとすると障壁もあって実現するには難しいと感じられると思います。
そういった課題を解決し、BPRによる「業務改革」を支援するBPRコンサルティングサービスを株式会社ベルシステム24が提供しております。株式会社ベルシステム24が提供するBPRコンサルティングサービスは1,300社以上の顧客のコンタクトセンターや営業代行、事務処理などのBPOサービスを手掛ける中で蓄積したノウハウやフレームワークを応用した、業務プロセスの変革を企画・実行するサービスです。企画だけではなく、実行まで網羅しているため、現状分析からプラン策定に留まらず、継続的な業務プロセスの見直しを行うことができます。
BPRコンサルティングサービスではコア業務にリソースを集中するためのノンコア業務の業務効率化やコスト削減を目指し、現状の業務分析による課題抽出、最適化のためのプラン策定から、DX推進による大幅な効率化を含む業務設計の刷新、導入・実行まで、ワンストップで提供しています。
企業が掲げる事業計画や戦略から導き出されたあるべき姿に向けて、100名以上のBPRスキルを持つ専門コンサルタントが複合的なアプローチを行うことで、実現性が高い業務改革を行うことができます。「現状分析」「課題抽出」を踏まえた「プラン策定」フェーズと、そのプランを用いた「設計・導入」からの「実行」フェーズの2段階で業務プロセス改革が実現されます。もちろん、ニーズに合わせて、必要なプロセスの一部のみを利用することも可能です。
ナレッジマネジメントの課題をBPRで解決したい場合は、専門のベンダーにお任せすることも課題解決の近道となり得るでしょう。
まとめ
ナレッジマネジメントにはBPRが有用です。BPRによって現状分析がされ、ナレッジの整備状況や属人化状況を可視化することができ、従来のナレッジ管理運用や業務プロセスを見直すことで、抜本的な業務プロセスの改革と適切なナレッジマネジメントが実現できます。
今回ご紹介した事例ではBPRによって営業活動や企画業務に充てられる時間を向上させることに成功していました。解決策の一つとして一部業務のBPOによってナレッジが整備され、属人化の防止も行うことができております。
ベルシステム24ではBPRを成功に導き、効果を最大化させるために独自のフレームワークとコンタクトセンター運営で培ったノウハウを活かして、現状分析から課題を特定し、課題解決に向けた業務の再設計を行うBPRコンサルティングサービスを提供しております。
効果的なBPRを実践したい場合は、ベルシステム24のBPRコンサルティングサービスを検討してみるのも良いでしょう。
執筆者紹介
ベルシステム24入社後、通信系クライアントのオペレーション部門にてカスタマーサポート部門のマネージメントを約13年経験。
その後BPR担当部門に異動し、過去の豊富なオペレーション経験を活かし通信系をはじめとした様々なクライアントにおけるBPR業務および業務改革提案を遂行。
直近ではコールセンターだけではなく、営業部門・企画部門におけるBPR案件を数多く対応。
現在は本部内におけるBPR担当部門のマネージャーとしてプロジェクトの全体統括・管理を行っている。
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