コンタクトセンターにおけるCXについての重要なテーマの一つがオムニチャネル戦略です。コンタクトセンター業界におけるオムニチャネルは、顧客やユーザーからのお問い合わせに対し、従来の電話以外のチャネルニーズの拡大とともにチャネル間の顧客体験、対応情報を共有し、一貫した顧客体験を提供することが重要視されるようになりました。今回は、コンタクトセンターにおいてのオムニチャネル戦略とは何なのか、なぜオムニチャネル戦略が重要なのかについて紹介をしていきたいと思います。
オムニチャネル戦略とは
オムニチャネル戦略は、企業と顧客の接点となるチャネルのデータを統合することで、シームレスな顧客対応を可能にする戦略を指します。2011年にアメリカの大手百貨店「Macy's(メイシーズ)」が始めたのが発端とされています。Macy’sは実店舗とECサイトの在庫情報を統合し、店員にタブレットを配布して顧客へのきめ細かな提案を行うなどの施策を積極的に実施し、顧客満足度向上や在庫の適正化などの効果がみられたところから始まりました。このあと、急速に同社は拡大し現在に至りますが、その背景にはスマートフォン普及による消費者の購買行動の変化を捉え、スマートフォンを用いた一連の購買行動に基づいた適切なチャネル(タブレット)を用意したことが、顧客満足度向上と差別化を実現しています。
オムニチャネル戦略は、コンタクトセンターの運営においても重要とされています。コンタクトセンターにおけるオムニチャネル戦略とは、顧客サービスのチャネルを電話に限定せず、センターの特性や顧客の期待に応じて最適なチャネルを提供することを指しています。具体的には、チャットボット、ボイスボット、メール、チャット、オンライン接客などがその選択肢として考えられます。例として、ある自治体ではオムニチャネル戦略を採用し、電話のみで行っていた対応をチャットボットへ移行することで、プロセスを完全自動化し、センターの負荷を軽減しつつ顧客満足度の向上を達成しました。コンタクトセンターにおけるオムニチャネル戦略の実現には、CRMによるお問い合わせ情報の一元化、オペレーターが共有・参照できるシステム、適切なチャネル選定のためのコールリーズン分析といった要素が不可欠です。これらを実装することで、データの連携を強化し、異なるチャネルで収集した情報を相互に活用することが可能となり、最終的には顧客利便性の向上とCX実現に貢献します。
コンタクトセンターにおけるオムニチャネルが必要な理由
では、コンタクトセンターにおけるオムニチャネル戦略が重要視される主な理由は何なのでしょうか。オムニチャネル戦略の実施により、電話応対における顧客のストレスを軽減できることは明らかです。データ連携を通じて、顧客情報を即座に把握することが可能になり、これにより迅速かつ質の高い対応が実現します。特にトラブルやクレーム対応が多いコンタクトセンターでは、オムニチャネル戦略がCX向上に特に効果的です。顧客履歴の確認により、顧客の購買履歴や特性を把握することが可能となり、事前に準備を整えて迅速に対応できるため、顧客の待ち時間を短縮し、不満を抱かせずに対応できます。これはオペレーター目線でもメリットがあります。先に顧客情報を共有して準備できるということは、対応のストレスを軽減し、作業負担を減らすことができるからです。このように、トラブルやクレーム対応に伴うストレスを軽減し、より効率的で質の高い応対を行うことで、さらに全体としての顧客サービスの質の向上が期待できます。
次に、顧客が希望するチャネルを充実させることで、利便性の向上と自己解決を促進することが可能になります。突発的な商品やサービスの問題に直面した際に、電話窓口への連絡を希望する顧客もいますが、電話が繋がらない場合や営業時間外ではその解決が困難になります。このような状況で、FAQやチャットボットなどのサポートが適切に提供されていれば、顧客は電話を使わずとも自身の問題を解決できます。特に若い世代の多くは、オンラインサイトやSNSを使って情報を収集し、解決策を探す傾向があるので、この世代のためにはノンボイスチャネルの整備が非常に重要です。オムニチャネルによる自己解決を促進することができると、顧客だけではなく、企業側、オペレーター側の負担も軽減させられます。このメリットは、賃金上昇や人材不足といった問題を抱える日本のコンタクトセンターにとって特に大きな意味を持ちます。だからこそ、自動化技術やFAQの精度向上による自己解決の促進は、今後さらに企業側のニーズを高めることが予想されています。
コンタクトセンターにおけるオムニチャネル戦略の課題
しかし、オムニチャネル戦略を導入した企業が全て上手くいっているかというとそうではないというのが現状です。上手くいかない主な理由としては、オムニチャネルを導入しても、具体的にどのチャネルで何をどう伝えるべきかの方針が明確でなく、具体的な打ち手が顧客ニーズと合致していないことが多いからです。顧客が求めるチャットボットのシナリオが設定されていない、外部FAQに必要な回答を用意できていない、あるいは本当に知りたいことが書かれていないなどです。このような状況では、せっかくチャネルを広げても、エンドユーザーに上手く使われず、結果的に入電が増え、オペレーション部門の呼減にはつながらず、お客様の満足度も低下してしまいます。
その傾向はデジタルチャネルCX 調査の結果としても表れています。COVID-19でデジタルチャネルの利用は年々増えてきているものの、チャットボットだけでなく、初回問い合わせで使用することが多い FAQ 検索の一次解決率は他のチャネルと比べ低く、結局、問題が解決されず、電話での対応へ集約されているという結果が出ています。
出展)デジタルチャネルCX調査 2023年版→こちら
このようにデジタルチャネルが上手く機能しない一因に考えられるのは、企業全体の戦略的な取り組みが不足しているのに加え、やはりデータが一元化されていないという状況があるからではないでしょうか。データが一元化されていないと、局所的なデータ分析を行うことになり、チャネル選定のミスリードに繋がります。この問題を解決するために、まずはデータの一元化を行い、それを分析した結果をオムニチャネル戦略や適正なチャネル設定など具体的な検討へと繋げていきます。この検討の中で重要なのは、顧客の期待とニーズから出発し、顧客の視点を最優先に置くことです。これは前回のブログでもお伝えした通り、CXを根底から支える基本理念であり、顧客が実際に求めているチャネルやサービスを提供しなければ、その戦略は有効に機能しません。まずは顧客がオムニチャネルに対してどのような感想(不満)を持ち、何を求めているのかを明らかにすることが、成功への道を開く鍵となります。
オムニチャネル戦略の導入事例
では、イメージをしてもらいやすくするため、オムニチャネルを導入した成功事例をご紹介させていただきます。
藤沢市
問い合わせ窓口が多く、市民が適切な窓口を見つけられず、市職員も業務に集中できないという課題に直面していた中で、オムニチャネルに取り組んだ事例です。問い合わせ窓口を一元化しオペレーターの原則ワンストップ対応を行うとともに、問い合わせ内容を随時外部FAQへ反映することで最適化し、市民の自己解決を促進しています。その結果、市民はいつでもどこからでも市役所の情報にアクセスでき市民サービスの質が向上するとともに、市役所職員の負担軽減につながっています。
オリックス生命
オリックス生命保険は、オリックスグループ傘下の生命保険企業です。この企業では、コンタクトセンター、コンサーブアドバイザー(お客様の相談などに対応する人材)などと連携してオムニチャネル戦略の取り組みを推進しています。特に、これまでに持っていた保険の販売チャネル(代理店、金融機関、通販)に加えて、直販チャネルを新設し、チャネル間での情報統合を実現しました。この結果、チャネル間の情報連携が可能になるとともに、顧客の選択肢が増え、結果的に売り上げの増大へと繋がっています。
生活消費財販売メーカー
ある生活消費財販売メーカーで生活用品の使用方法や種類・仕様などの多岐に渡るお問い合わせ対応を受けているお客様相談センターで外部FAQを作成しました。作成方法としては、コールリーズン分析を活用し、お客さまの声を抽出し、その内容をもとに検討しました。それと並行して、ガイドラインやプロセスマップを策定することで、QAの品質を担保する仕組みを構築し、自己解決率の向上に寄与しました。外部FAQリリース後も、KPIを取得して定期的なレポーティングと分析を実施し、より最適なオムニチャネルの構築を目指しています。
まとめ
オムニチャネル戦略を導入しデータを連携させ有効活用することで、顧客や従業員のストレス軽減へと繋がるほか、外部FAQ整備により自己解決率の向上にもつながります。そのオムニチャネル戦略導入の成功のカギとなるのは、データの一元管理と顧客理解です。この点を整え、各会社独自のオムニチャネル戦略を検討することをおすすめします。
執筆者紹介
Salesforce 認定アドミニストレーター
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