今後、AI(人工知能)の研究開発が大きく進展した場合に、ビジネスに著しい変化をもたらすと注目を集めているのが、AGI(汎用人工知能)の実現です。本記事では、AGIとはいかなるものかを概説し、AGIと従来型AIの違いを明示します。また、AGIの登場で可能になることやコンタクトセンターでの活用方法を予想して紹介します。
AGI(汎用人工知能)とは?
AGIとは、Artificial General Intelligenceの頭文字をとって作った略語で、しばしば汎用人工知能と和訳されます。人間の生活や社会を一変させる力を持った画期的なAIとして注目される、AGIの概要を以下に示します。
AGIの持つ特長
AGIとは、汎用性を持つAI、つまり人間と同様に多種多様なタスクを幅広くこなして、ありとあらゆる問題を解決できるAIです。AGIには、特定の領域でしか使えないといった制約はありません。領域間の垣根を取り払って、柔軟に思考を巡らせることが可能です。AGIの思考は人間とほぼ同じであり、人間の感情や抽象的な事柄も理解できます。AGIには自己学習能力が備わっているので、人間が学習用データを用意する必要はありません。AGIは学習用の新たな情報を自ら探して学習を繰り返し、知識を習得して進化することが可能です。
AGIの現状
AGIは、現時点では実在しない想像上のAIであり、将来実現しない可能性は否めません。とはいえ、AI技術の進歩は近年目を見張るものがあり、近い将来AGIが誕生すると予想する専門家もいます。なかでも、米国人のレイ・カーツワイル博士は、自己学習するAIが進化を遂げて人間の知能レベルを追い越し、社会を激変させるシンギュラリティ(技術的特異点)という転換点を提唱しています。博士の予測では、AGIの誕生はまもなくです。2029年にAGIが登場してAIの知能レベルが人間に追いつき、2045年にはAIの知能レベルが人間を上回ってシンギュラリティに達するとしています。
AGI(汎用人工知能)と従来型AIとの違い
AGIと現在使われている従来型AIとの違いは、2つの分類による視点で明確にすることが可能です。ひとつは、何にでも対応できる汎用型か対応できる分野が限定される特化型かで分ける視点です。もうひとつは、AIの知性を評価して強いAIか弱いAIかで分けるという視点で、強いAI・弱いAIという概念は、ジョン・サールという米国の哲学者によって提唱されました。
AGI(汎用人工知能)=強いAI
AGIは汎用型、かつ強いAIに分類されます。強いAIの定義は、人間と同等の知性や認知能力を持つ自律的なAIです。つまり、人間と同等の知能レベルを有し、自己学習を行って成長でき、物理的な作業を含む多種多様なタスクをこなせ、人間のように心を宿していて感情が理解でき、高度な判断ができるAIです。
以上の定義から、AGIはほぼ強いAIに該当していることがわかります。なお、自己学習・自己進化のレベルがAGIよりも高く、人間よりもはるかに優れた知能を持つAIは、ASI(Artificial Superintelligence:人工超知能)と呼んで区別します。ASIについては、関連記事をご覧ください。
AI(特化型人工知能)=弱いAI
ChatGPTなど、これまでに登場した従来型AIは、いずれも特化型AI、かつ弱いAIに分類されます。弱いAIの定義は、知性や認知能力が人間に及ばず、人間の指示通りにタスクをこなすAIです。つまり、弱いAIは、特定分野で決められたタスクを実行する単なる道具であり、心が宿らないため人間の感情を理解できません。また、弱いAIは自己学習ができないため、人間が学習データを用意して機械学習などをさせるというように、学習をお膳立てする必要があります。
将来、AGIが実現すれば、AGIが従来型AIに取って代わって実装される可能性があります。
AGI(汎用人工知能)の登場で実現できること
想像していたAGIが現実のものとなった未来では、どのようなことが実現できるようになるのかを紹介します。
AGI自らの判断によって問題解決ができる
AGIは自ら判断して問題を解決する能力を持ち、人間の処理能力を超える膨大なデータを短時間に処理して問題点や課題を抽出することが可能です。そのため、AGIが登場すれば、現時点では対処できないさまざまな問題が解決できるようになると期待されています。
たとえば、医療分野でAGIが実装されると、AGIは膨大な医学的知識を自己学習し、検査結果や症状など大量の患者データを分析して病気を診断します。これにより、さまざまな病気の根本原因を見つけて病気のメカニズムを理解できるようになります。加えて、自らが発見した病因への理解を次の自己学習に役立てることでAGIの能力が向上し、新たな治療法や新薬の発見につなげることも可能です。
また、自動運転車にAGIが搭載されると、曜日、時間帯、気象といった条件ごとに渋滞が発生しやすい場所を自己学習し、自ら混雑を予測して混む道を避けて走行できるようになります。
さらに、コンタクトセンターでAGIが実装された場合には、膨大な量の顧客データを分析して、顧客ごとに最適な対応が何かを導き出せるようになり、個々の顧客の満足度をアップさせる、より戦略的な顧客対応が可能になると期待されます。
新しいアイデア・理論などの創出につながる
AGIの特長とも言える自己学習の積み重ねが生み出す効果は、それ自身の知識レベルを向上させるのみにとどまりません。AGIは、自己学習で獲得したあらゆる分野の膨大な知識を自由に組み合わせ、画期的なアイデア、理論、芸術作品などを作り出すことが可能です。
AGIの登場で、人間の限られた情報処理能力では思いつけなかったアイデアや理論が創出され、これまでに人類が解決できなかった難題を克服できるのではないかと期待されています。また、AGIによって新たなアイデアや理論が次々と発見されれば、あらゆる学問が飛躍的に進歩する可能性もあります。
人間と同レベルのコミュニケーションを行える
AGIは心を持っているため、あたかも人間のようにコミュニケーションを取ることが可能です。AGIは人間の表情や声などから、その時々の体調や感情などを判断して理解し、人間と同じように振る舞えます。そのため、コミュニケーションが欠かせない教育現場や医療現場でも活躍を期待されています。
AGIは対人コミュニケーションが行え、かつその場で自律的に判断してさまざまな問題を解決できることから、今まで人間にしか任せられなかったコンタクトセンターでの臨機応変な対応も担当可能です。AGIならば、電話をかけてきた顧客の話や声の調子から、問題点や感情などを分析して把握でき、その場で顧客に解決策の提案まで行えます。
さらに、コンタクトセンターにAGIを実装すれば、収集した「顧客の声(VOC)」の分析にも活用できて一石二鳥です。VOCの詳細については、関連記事をご覧ください。
まとめ
AGIは現時点では存在していない、想像上のAIです。人間と同等の知性や認知能力を保有し、自律的に学習や判断を行い、分野を限定せずにどのようなタスクでもこなせるところが、従来型AIとは異なります。人間の感情を理解して対人コミュニケーションが行えるAGIが登場すれば、コンタクトセンターでの電話対応やVOCの分析に活用することが可能です。
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