コンタクトセンター業界では、これまで電話などの有人対応から、チャットボットや外部FAQなどノンボイスチャネルへの自己解決領域への期待が高まる中、オムニチャネル戦略の策定は急務となります。しかし、そのオムニチャネル戦略をどのように描けばよいか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。今回は、オムニチャネル戦略を描くために必要なことについて話をします。
顧客ニーズの理解と分析の重要性
まず、オムニチャネル戦略を検討する第一歩として、データの一元管理と並行して、顧客のニーズや行動を深く理解する必要があります。ホームページ上のFAQ整備やチャットボットの導入後も電話対応件数が減少しない場合、その原因は顧客の問題点や不満が適切に理解されていないためである可能性が高いです。オムニチャンネルに関わる顧客の問題点や不満を明確にすることで、オムニチャネル戦略の目的と方向性を定めることができます。
そして、その顧客ニーズや行動を把握するためには、分析が必要であり、さらにその分析は客観的なデータに基づくものであることが重要です。データに基づいた分析は、主観的な分析と比較して、精度が高く現状を可視化できるのに加え、企業の主観では気付かなかった課題、従来は見過ごされていた潜在的な問題点を発見することができ、より具体的な改善策や戦略を立案するための出発点となります。また客観的なデータを用いた分析は、社内でのスムーズな意思決定にも繋がります。経験や勘による戦略は、主観的な要素が強く、意思決定する際多くの人とすり合わせる必要があり、時間がかかってしまいます。それと比較して、データ分析は客観的な情報に裏付けされたものなので、多くの人を納得させやすく、社内の意思決定場面でのコミュニケーションを円滑にします。特にオムニチャネル戦略は、横断的なプロジェクトによって実行されるケースが想定され、社内での意思決定場面も多く存在しますので、多くの関係者に納得いただくためにもデータによる客観的な分析は必須になるのではないかと思います。
ただ、コンタクトセンターでどのようなデータで分析すればよいのか分からないと、イメージが湧かない方もいらっしゃるのではないでしょうか。データとしては、電話での問い合わせや顧客のアンケートなどが挙げられます。このようなデータは、顧客がどのような問い合わせをしているのか、何に不満を感じているのかを具体的に知ることができるため、企業にとっての最適なオムニチャネル戦略を見つけ出す上で大きな手がかりとなるのではないかと思います。 本日は、最適なオムニチャネル戦略を策定するために、コンタクトセンターでできる分析手法について簡単にご紹介いたします。特にオムニチャネル戦略の改善活動にすぐにつなげられる実用的な分析手法をピックアップしておりますので、ぜひ参考にしてください。
分析手法の選択
①NPS®分析
NPS®(NetPromoterScore)は、企業の商品やサービスに対する顧客の信頼や愛着度を測る顧客ロイヤリティ指標です。CX戦略を検討する際に使用される方法で、NPS®を通して、「あなたはこの商品を親しい友人や家族にどの程度推奨しますか?」という質問を通して、推奨度を数値化し、顧客ロイヤリティの程度を可視化します。これと前々回のブログで話したカスタマージャーニーを掛け合わせることで、企業は各タッチポイントにおける顧客の信頼や愛着を評価することができます。カスタマージャー二ー上のタッチポイントごとにNPS®を測定することで、各タッチポイントのNPS®の数値の比較を行うことができ、どこに課題があるのか、優先的に解決すべき課題は何なのかを把握できるようになります。例えば、FAQやチャットボットで確認・相談する段階でNPS®が低い場合、そのタッチポイントでの改善に取り組む必要がありますし、コンタクトセンターへ相談する段階で不満が多く、FAQやチャットボットに満足されている場合は、FAQやチャットボットの改善に労力を割かなくても良いかもしれません。このように、NPS®により分析することで、本当に顧客にとって課題となっているタッチポイントに対してアプローチができます。
またNPS®で大枠の傾向や改善方向性が見えれば、粒度をさらに細かくして、どのような点につまずきポイントがあるのかをNPS®で見ていくこともできます。それは、FAQにたどり着く前(FAQを調べるまでの導線)からたどりついた後(文言の内容)など細かくタッチポイントを抽出し、NPS®を取れば具体的な改善案を導き出すなどです。例えば、FAQにたどりつく前であれば「導線は適切だったか」「ボタンの色、配置は適切だったか」などが挙げられますし、FAQにたどりついた後だと「FAQ自体の文言がわかりやすかったか」などのタッチポイントが挙げられます。このようなタッチポイントを設定してNPS®を取り、その結果「文言がわかりにくい」という評価が多ければ、文言の改善に関する具体的な策を検討することもできます。このようにNPS®をカスタマージャーニー上の各タッチポイントで測定することで、顧客体験における課題感の把握とその優先順位が明確になり、効果的な改善策を実施できます。企業によっては、NPS®を使って、どう改善活動を実施してよいか分からないと戸惑う方もいますが、このようなアプローチで顧客体験の可視化と具体的な問題点の特定を通じて、オムニチャネル戦略の具体的な道筋を見つけることができます。
弊社でも、ある金融系会社でカスタマージャーニーに基づいてNPS®調査をご支援した事例があります。これはコンタクトセンターの実力値を図ることを背景に、NPS®調査を数年かけて実施しました。最初は、NPS®調査をカスタマージャーニーで把握することで、ノンボイスコミュニケーションやセンター内部の体制などの課題があることが明らかになりました。その解決策として、ノンボイスコミュニケーションの強化として、WEBフォームの改修とその導線にチャットボットを入れたほか、センター内部での体制として横串の専任チームの部分的な導入を実施するなど内部の運用上の改善活動に取り組みました。その結果NPS®を取り始めてから3年で、NPS®が約15%の上昇という結果を得ることができています。
②コールリーズン分析
コールリーズン分析は、FAQやチャットボットのコンテンツ改善のために理解を深めるための有効な手法です。この分析では、電話などの会話テキストを分析し、顧客が連絡を取った背景を明らかにします。特に、ここでいうコールリーズン分析は、テキストマイニングツールの使用が推奨されています。理由としては、従来の応対履歴に基づく分析では、オペレーターの主観による要約が生じ、顧客の生の声の反映が難しいことが挙げられます。また、多くの応対履歴は主となる顧客からの問い合わせのみが可視化され、その前後で発生している細かな相談事項や質問などは、データ上可視化されることはありません。テキストマイニングツールを使って音声をテキスト化することで、それら全ての顧客の具体的な声を捉えることが可能になり、電話での問い合わせ理由や詳細までを把握できます。加えて、テキストマイニングツールで得たコールリーズンデータにより、問い合わせ内容をカテゴリー分けし、問い合わせの傾向を定量的に把握することもできます。
これらの特性により、コールリーズン分析で電話対応が必要な問い合わせか、FAQやチャットボットなどのチャネルで解決可能な問い合わせなのかを適切に判断できるようになります。例えば、よくある問い合わせで簡単なものはFAQやチャットボットを介して答え、より複雑で個別性が高いものは電話などの音声チャネルを選択するといった具体的な戦略が立てられます。さらに、分析を継続的に実施することで、FAQやチャットボットを定期的に更新し、顧客の要望に応えるコンテンツ改善を行うことができます。この地道ながらも重要な取り組みを通じて、自己解決率の向上につなげることが可能です。
コールリーズン分析を活用した事例として、弊社では以前航空会社をご支援いたしました。こちらの会社では、Covid-19の終息を受け呼量が増大し、応答率が低下していたため、呼減を目的にコールリーズン分析を実施した案件です。その中で、コールリーズン分析により、問い合わせ傾向と問い合わせ背景を深堀して分析し、どの工程でつまずいているのか、FAQで解決できなかった原因は何かを確認して、改善ターゲットを提示しました。有人でないと解決できない問い合わせか、無人で対応できるのかを、問い合わせ別にチャネル判定を行い、判定結果をもとに有人・無人の割合を提示し、対応方針を見直されています。この会社では、コールリーズン分析に加え、FAQの定義策定やFAQ修正などにも波及させ、呼減に向けた活動に取り組まれています。
③Web解析
最後に紹介する分析手法はWeb解析です。この手法は、オンラインサイト上で顧客が直面している課題を明確にし、効果的な改善策を策定するのに役立ちます。オンラインサイト上での顧客行動を解析し、問い合わせ前に顧客が経験する問題を可視化することで、FAQのどの部分で顧客が困っているかを把握できます。これにより、FAQコンテンツの不明瞭さやオンラインサイトの導線の問題、顧客特性に基づく具体的な課題を特定できます。例えば、Web分析を通して、ログインに繰り返し失敗する高齢の顧客が多い、契約変更に関するFAQへは辿り着くものの、そこから先の行動に迷い、結果的に電話で問い合わせるケースが多いなど、詳細なWeb上の顧客行動の傾向を把握できます。この分析を通じて、よくある問い合わせに至る顧客の行動パターンや問い合わせを発生させている原因を明らかにし、自己解決を促すための施策を策定できます。また、コールリーズン分析などの問い合わせデータと組み合わせることで、さらに詳細な課題分析や修正計画の策定が可能になります。
戦略策定後の実行フェーズの方法論
上記の分析手法を基に戦略策定を行った後には、具体的な実行へと移行します。オムニチャネル戦略の中の実行手段として挙げられるホームページの外部FAQの整備・チャットボットのシナリオ整備ですが、戦略策定後も定期的にNPS®調査やコールリーズン分析を行い、その結果を受け、それぞれチューニングしていくことが重要です。さらに外部FAQの整備では、分析以外に具体的なルール整備も重要です。ルールなく策定すると、管理者などの入れ替えにより、いずれは記載方法にブレが生じ、次第に使われないものとなり形骸化していくことなります。まずコンテンツを整備する上では、色やフォント、フォーマットなどを策定したガイドラインを定めることを推奨します。そして、ルール整備とともに、ガイドラインに沿って運用がなされているかどうかを図るためのKPI設計(参照率、離脱率など)も有効です。PDCAサイクルを回して、KPIを基に改善活動を繰り返すことで、それぞれの会社に合ったオムニチャネル戦略となるはずです。外部FAQ・チャットボットのコンテンツの指標であれば検索一致率・解決率などを取っていくことで、改善後どれだけ効果が見られたか、KPIなどの数値を追っていくことが重要です。例えば、未達だったらそのための改善活動が必要ですし、達成しているのであれば、目標値の見直しが必要かもしれません。このように、継続的に数値を取得して分析することで、さらなる最適なオムニチャネル戦略となるかと思いますので、ぜひ取り組んでみてください。また上記で示したような分析は、弊社にてサポートすることも可能です。オムニチャネル戦略のさまざまな段階でお客さまをサポートし、課題解決のお手伝いをしていますので、もしご興味ございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
オムニチャネル戦略を成功に導くためには、NPS®やコールリーズン分析などを通して、顧客を深く理解し、課題を明らかにし、改善活動へと繋げることが重要です。さらに戦略策定後も、改善活動として継続した分析を実施したり、KPIなどを定期的に見直すことで最適なオムニチャネル戦略にすることができるので、その点を意識して活動することをおすすめします。
*Net Promoter®およびNPS®、Predictive NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズ(現NICE Systems,Inc)の登録商標です。
執筆者紹介
Salesforce 認定アドミニストレーター
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