コンタクトセンターに寄せられる問い合わせは、顧客のリアルな声です。データ活用をすることで商品やサービスの改善、開発、業務の効率化、課題解決に繋がるヒントが得られる可能性があります。
本記事ではコンタクトセンターでデータ活用する際のメリットや注意点、有効なツールやサービスなどを紹介します。関連記事と併せてぜひ参考にしてください。
データ活用とは?
データ活用は、データに基づいて意思決定や課題解決といった業務プロセスを実現する手段です。「勘・経験・度胸」ではなく、データドリブン(Date Driven)で意思決定する行為を意味します。データやテクノロジーを活用して業務の効率化などを図る、DXの基盤となるものです。
データ分析との違い
「データ活用」と「データ分析」は混同されやすいですが、目的に大きな違いがあります。データ分析の目的はデータから知見を得ることであり、データ活用はデータ分析をベースにして初めて成立します。言い換えれば、データ分析はデータ活用の手段とも言えます。
そもそもデータとは、数字や文字の羅列に過ぎません。そのなかから規則性、因果・相関関係、異常値などを探っていくことがデータ分析の役割です。データ分析をするには統計学や分析手法、データ加工技術などの知識が必要ですが、BIツールを使えば専門知識がなくても高度な分析が可能です。
一方、データ活用とは、データ分析で得られた知見をビジネスに生かして、生産性の向上や経費の削減など、何らかのメリットを生み出すことです。実務経験をもとに、データから得た知見を業務に反映できるスキルが求められます。
小売業におけるデータ活用の事例
ある小売店では、従来は経験則で発注量を設定しており、商品の売り切れによる販売機会の損失が発生する課題に悩んでいました。消費者のニーズが多様化した社会の変化に対して、多品種少量展開で対応していたものの、経験則では対応しきれない懸念を同小売店は感じていました。
課題の解決策となったのはデータ活用です。売上や在庫データ、店舗ごとの販売データなどを収集し、データに基づくマーケティング施策を素早く実施し、加えて店舗の店長にも端末を配布することで、現場でデータに基づく施策を打てるようにしました。その結果、課題となっていた販売機会損失の減少に繋がり、売上が2割近く増加するメリットを生みだしています。
データ活用の3つのメリット
コンタクトセンターでデータ活用をする主なメリットとしては、「客観的な根拠に基づいた顧客分析の実施」や「業務プロセスの改善」、「意思決定の迅速化」が挙げられます。
1.顧客分析の精度向上
リアルタイムで収集・蓄積したデータを分析・活用することで、顧客のニーズをより正確に把握できるようになります。それによって顧客に対して適切にアプローチしやすくなり、業績向上などのメリットをもたらします。データに基づいた顧客分析ができるため、経験や推測よりも精度の高い判断が可能です。
例えば、データ分析によって顧客の購買意欲を把握しやすくなるため、適切なタイミングで商品を提案できるようになります。ほかにも、ターゲットに合わせたコミュニケーションや効果的なマーケティングの企画、営業活動を実施する際に活かせます。
売上の落ち込みなどの悪い状況下にあっても、データ活用をすることで改善のヒントを得やすくなります。蓄積した顧客データから顧客のニーズや関心について理解を深め、そこから現状のビジネスの改善点や顧客満足度を高めるための知見、新しい商品やサービス開発に繋がるヒントを見つけ出せる可能性があります。
2.業務の効率化
データ活用を通じて業務プロセスに存在するムダやボトルネックを発見し、改善することでコスト削減を実現できます。また、ベテランの経験や勘に依存していたノウハウの共有や人の目では発見できない問題点の把握にも有用です。
例えば、ベテラン従業員の行動をデータで収集してノウハウやナレッジを抽出し、全体に共有することで業務効率が向上します。抽出したノウハウを社員教育に取り入れることで、人材育成のレベルアップに繋げられます。ノウハウの共有によってベテラン従業員の属人化を解消することも可能です。
コンタクトセンター業務においては、問い合わせ内容や応対率、稼働率のデータを収集することで課題を把握できる場合があります。オペレーターにかかる負担の偏りや、応答率の低さなど、現場の課題を可視化することが可能です。課題を客観的に把握できれば、振り分けを見直したり、自動音声応答やチャットボットを導入したりといった解決策を考案しやすくなります。
3.意思決定の迅速化
現状をデータという客観的な事実に基づいて正確に把握することで、最善の判断をスピーディに下しやすくなります。
例えば、あるマーケティング施策を実行した際の効果を知りたい場合、個人の主観による判断よりも、収集したデータを見て判断する方がより正確に判断ができます。客観的なデータを踏まえることで、よりよいマーケティング活動に繋げることが可能です。
消費者の価値観が多様化し、変化が早い現代のビジネス環境では、データに基づいた根拠ある判断が欠かせません。IT端末や技術が普及した現在では、データ活用は当たり前のものになっており、リアルタイムに収集されるデータから予測を立てて、迅速に意思決定して具体的な行動に落とし込んでいく必要があります。データ活用なしにビジネスの意思決定はできないと言っても過言ではありません。
データ活用の二つの注意点
データ活用を実施する場合は、ビジネスに活用できるだけのデータ分析に関するスキルが必要です。また、プライバシーの保護や個人情報の扱いにも注意する必要があります。
1.プライバシー侵害のリスク
データ活用目的で収集するデータの中には顧客データがあり、個人情報が含まれています。データの活用方法によってはプライバシーを侵害するリスクがあるため、注意が必要です。
個人情報の利活用とプライバシー保護を目的とした個人情報保護法は、2003年に成立して以来、3回大きな改正が実施されており、データ活用に対する規制は徐々に整備されています。個人情報を取り扱う事業者は、利用目的を明示したり、データ取得時に本人に通知しなければならなかったりといった義務が発生します。そのため、企業が顧客データを活用する際は、消費者のプライバシー保護意識への十分な配慮が必要です。
企業が取れる具体的な対策としては、データの暗号化やセキュリティソフトの導入、データ運用のルール徹底、アクセス制限や閲覧制限などが挙げられます。必要な対策をせず、個人情報が流出したり、プライバシーを侵害したりした場合、企業の社会的な信用が損なわれる恐れがあるため、十分な体制を整えておきましょう。
2.一定のスキルの必要性
データ活用を実践するには一定のスキルが必要です。具体的には、収集データを分析してビジネスに有益な情報を見出し、改善や問題の解決に繋げていく能力が求められます。得たデータを正しく分析するには、データの種類や分析方法などの基本的な知識も必要です。そのため、企業はデータ活用に精通した人材の育成や確保が重要になります。
データ活用に役立つ人材のひとつにデータサイエンティストがあります。データサイエンティストとは、AIやプログラミングなどのデジタル技術を利用しながら、収集した膨大なデータを活用してビジネス上の課題を解決する人材です。データサイエンティストに必要なスキルを大まかに挙げると、思考力や専門知識、コミュニケーション力などがあります。この場合の専門知識とは、統計学やビッグデータを扱う知識、データ分析に必要なプログラミングスキルのことです。
高度なスキルが求められることから人材不足の傾向があり、採用以外に社内育成も視野に入れる必要があります。データサイエンティストのような人材を育成する方法としては、研修プログラムの実施や資格取得の促進、勉強会などが挙げられます。データ活用人材向けの資格としては、統計検定、基本情報技術者試験、ORACLE MASTERなどがあり、資格の取得を通して従業員のスキルアップにも繋がります。
なお、データ分析をする際は主観的な判断を排除して客観的な視点で考えることが重要です。そのため、データ活用担当者以外に、社外の専門家の意見やBIツールも活用しながら分析を進めることも大切です。
データ活用については以下の関連記事もぜひ参考にしてください。データ活用の基本知識や実践時のポイントなどが分かります。
コンタクトセンターのデータから得られるもの
マルチチャネル化により、コールセンターは単なる電話窓口ではなく、顧客接点の最前線に立つ組織(コンタクトセンター)と位置づけられるようになりました。さらにCTI(Computer Telephony Integration)の進化により、顧客の「生の声」の分析も可能になっています。
多くの顧客の声が寄せられるコンタクトセンターでは、問い合わせ内容から膨大なデータを収集できます。データ活用が重要視される昨今において、コンタクトセンターで得られる顧客の声は、企業がマーケティングを展開するにあたって考慮すべき重要な要素です。その事情を踏まえて、コンタクトセンターにおいてはどのようなデータが収集でき、どう活用できるのかについて以下で解説します。
顧客のニーズ
コンタクトセンターには、多様なチャネルから顧客の問い合わせが寄せられます。問い合わせ内容には顧客の不満、悩み、要望といったリアルな声が含まれており、それを分析することで顧客の様々なニーズの把握が可能です。これにより、商品やサービス、営業方法の改善、新商品やサービス開発の糸口が見つかる可能性があります。
顧客属性や傾向
顧客の属性や行動の傾向を収集し、問い合わせ内容と組み合わせて分析することで、顧客一人ひとりのパーソナルデータが見えてきます。収集するデータの例としては次のようなものが挙げられます。
- 個人情報(氏名、性別、年齢、住所、家族構成、購買履歴)
- 問い合わせ情報(通話日時、通話時間、通話内容)
これらの顧客情報を収集してデータ分析することで、見込み顧客の開拓や新商品開発、マーケティングに活かせる知見が得られます。
商品開発やサービスの改善のきっかけ
コンタクトセンターから得たデータを分析すると、商品やサービスを改善するヒントが得られます。例えば、クレームの内容や頻繁に来る問い合わせ内容、要望などの声を注意深く分析することで、これまで気づかなかった改善点が見つかる可能性があります。顧客の声から得たヒントをもとに、商品やサービスにある問題を改善することが可能です。
データの収集方法
コンタクトセンターでデータ活用をするには、どのように情報を収集すべきでしょうか。昨今のコンタクトセンターでは、業務プロセスの数値化だけでなく、テキストや音声データの収集など、方法が多様化しつつあります。
KPI(重要業績評価指標)
KPIは「Key Performance Indicator」の略称で、最終目標に対する達成度合いを示す指標です。
コンタクトセンターでは「顧客満足度の向上」や「応対品質の向上」など、達成に向けた道筋がわかりにくい目標を掲げています。そこでKPIを設定することで、業務プロセスを細分化し、具現化・数値化ができます。
KPIは数値を出せば終わりではなく、その値を比較・検討し、業務の改善点や改善度合いを可視化・共有化することが重要です。KPI分析をしないと、最終目標達成に向けて何をどこまで達成できているか、何をどう改善すべきかが不明確になる恐れがあります。
コンタクトセンターにおける主なKPIは以下の通りです。
- 応答率
- 放棄呼率
- SL(サービスレベル)
- ASA(平均応答速度)
- 稼働率
- AHT(平均処理時間)
- ATT(平均通話時間)
- ACW(平均後処理時間)
- CPC(1コールにかかるコスト)
VoC(お客様の声)
VOCとは「Voice Of Customer(ボイス・オブ・カスタマー)」の略称で、文字通り「顧客の声」を意味します。意見やクレームといった生の「顧客の声」をデータ化して改善点を探り、それをもとに商品やサービスをレベルアップさせたり、新たに開発したりします。VOC分析の実施によって、顧客満足度向上が期待できます。
テキストマイニング
テキストマイニング(Text Mining)とは、文章や言葉などのテキストデータから自然言語解析を用いて、ビジネス上で有益な情報を抽出する分析手法です。膨大な量のテキストデータから、意味のある形で情報を「採掘(マイニング)」できます。
テキストマイニングはコンタクトセンターに寄せられた声のほか、FAQシステムやチャットボットなどに入力されたキーワード分析などに利用されています。
テキストマイニングにより、データ処理時間が大幅に短縮されるとともに、比較的容易にさまざまなアプローチでの分析ができるようになりました。例えば、クレームの傾向を可視化して、事態が悪化する前に対策を立てたり、特定のキーワードが多発していることをリアルタイムで感知して、トラブルの早期解決につなげたりできます。
コンタクトセンターのデータ活用・分析を支援するサービス
膨大なデータの分析・活用をサポートするツールやサービスを紹介します。コンタクトセンターに特化したツールを選択することで、より合理的なデータ活用が可能になります。
AmiVoice
AmiVoiceは、コンタクトセンターに特化した国内有数の音声認識システムです。世界トップレベルの音声認識技術を搭載し、会話を自動的にテキスト化します。これにより手入力で作成していた作業を削減できます。幅広い業種の専門用語に対応する音声認識が可能なほか、企業や業務ごとに用語(辞書)を設定してカスタマイズできることも魅力です。
VextMiner
VextMinerは、コンタクトセンター向けテキストマイニングツールです。コンタクトセンターに蓄積された膨大なデータを迅速に自動学習・分類して効果的なVOC分析を実現します。また、データに埋もれていた顧客の貴重な意見の拾い出しや、急増するキーワードを自動抽出する機能も備えています。超大規模のビッグデータにも対応可能なので、コンタクトセンターに寄せられた会話テキストだけでなくSNSデータなどにも活用可能です。
テキストマイニングツールの基本知識・選び方を知りたい場合や、他のツールとの比較検討をしたい場合は、以下の記事もぜひ参考にしてください。
まとめ
コンタクトセンターに蓄積されるデータは、企業の重要な資産です。眠らせておかずにデータ活用することで、客観的な根拠に基づいた顧客ニーズの把握に繋がり、商品やサービスの改善点を発見できます。また、個人の主観に拠らないデータを基にした客観的な判断が可能になり、マーケティング活動における迅速な意思決定にも役立ちます。
データ活用のポイントは、目的に即したデータを収集、分類し、分析することです。実践するためにはデータ活用のスキルがある人材の採用と育成、コンタクトセンターに特化したサポートツールの導入が欠かせません。効率的なコンタクトセンター運用、ひいては企業の成長のためにも各種ツールをぜひお役立てください。
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