時代の変化が激しい昨今では顧客ニーズの多様化に伴いデータサイエンスの価値が跳ね上がっています。本記事では、データカルチャーを醸成してデータエコノミー社会を生き抜くために、データ活用についてDXを紐解きながら解説していきます。
DXを嚙み砕こう
まずはDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か確認していきましょう。
経済産業省が発表している「DX推進ガイドライン」で、DX(デジタルトランスフォーメーション)は以下のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
つまり、DXの推進とは、データとデジタル技術の活用を前進させようとすることです。
さて、データの活用と言っても、ふんわりとした認識の方が多いのではないでしょうか。
データの活用について簡単に説明すると、ビジネス分野の場合、「データを分析して、ビジネス活動に役立てること」になります。
データの分析結果をビジネス活動で有効利用できず、ただのデータ収集、ただのデータ分析で終わってしまう失敗例も多いようなので、当記事ではデータ活用で失敗しないためのポイントを中心に説明していきたいと思います。
もう一方のデジタル技術ですが、代表的なものとして「IoT」「ビッグデータ」「AI」「RPA」などが挙げられます。ITとデジタルの違いについての定義は曖昧で、いずれもほぼ同一の対象を指しますので、シンプルに先進的なIT技術をデジタル技術と認識して問題ないでしょう。単純に先端技術をDXのD(デジタル)を冠した言葉で括ろうとしているだけではないかと思います。
ちなみに経済産業省は、いまだに新技術との互換性のない老朽化したシステムを運用している企業が多いことや、それらを維持運用できるエンジニア不足の激化などが原因で近い将来、企業の世界競争力が急速に低下し大きな経済損失を招く事態になることを懸念しているようなので、デジタル技術の活用のくだりには老朽化システム更改への期待が込められているような気がします。
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分析対象のデータとは?
データ分析にはそれなりのデータ量が必要で、かつ、データの質も重要になるため、ビッグデータを対象とするケースが多いです。
ビッグデータとはその名のとおり大容量のデータのことを指し、特に明確な定義はありません。
ここでは総務省の解釈に倣い、ビッグデータを大きく3つに分類して解説していきますので、少なくとも分析を検討しているタイプのデータについては押さえておきましょう。
①個人主体のデータ
「パーソナルデータ」と呼ばれる個人情報をはじめ個人と関係性が見出せる広範囲の情報を指します。ここには個人情報を加工して作成する「匿名加工情報」も含まれます。また、「個人情報保護法」に則って利用する必要があるため取り扱いには注意が必要です。
②企業主体のデータ
総務省では企業主体のデータを更に2つ(「知のデジタル化」と「M2Mデータ」)に分類し、あわせて「産業データ」と呼んでおり、これは企業の保有する「パーソナルデータ」以外のデータのことを指します。特に分析対象として注目されやすい「社内データ」の中には従業員の「パーソナルデータ」も多く含まれているので、「個人情報保護法」や「企業法務」に則って取り扱う必要があるため注意が必要です。たとえ少量の個人情報でも事業のために用いた場合、個人情報取扱業者扱いとなり、知らなかったでは済まされないので、個人情報取扱業者の責務をしっかりと確認しておきましょう。
また、「社内データ」を利用する際は、これを適切なスコープで監督・サポートする活動(データガバナンス)を並行して実施することが重要です。例えば、全社レベルの「社内データ」が対象の場合、様々な全社レベルの問題に直面することが予想されるので、全社レベルでの決定権のある組織(経営層)の支援のもと、基本方針の策定など、事前に全社レベルの課題を解決し、現場を監督・サポートする体制があれば、円滑に「社内データ」を利用することができるでしょう。
③政府主体のデータ
国や地方公共団体が提供する「オープンデータ」を指します。オープンデータとは、インターネット等を通じて容易に利用(加工、編集、再配布等)可能とするため以下の全てを満たしたデータのことです。
- 営利目的、非営利目的を問わず二次利用可能であること
- コンピュータプログラムが自動的にデータを加工・編集等が可能な形状であること
- 原則的に無償で利用可能であること
国勢調査など、様々なオープンデータが公開されているため、手元にデータが無いことを理由にデータ活用を諦めていた方はチェックしてみてください。
ビックデータの解説は以上になりますが、いずれのデータを利用する場合でも、数値の意味、集計の仕様など、事前にデータの中身について正しく把握しておくことが重要です。
例えば、国勢調査の家計調査を元に電気代の統計を行い、2月が最も電気代が高い結果が出たとします。この結果を分析するとき、家計調査には電気代のように需要と支出にタイムラグがあり翌月に計上される費目があることを知らない場合、2月の消費電力が最も高いという結果を導き出してしまう可能性があります。
データ活用のポイント
データ活用において最も大切なことは「最初に目的を明確にすること」です。
データ活用を失敗させないために、最初に目的を明確にしておきましょう。
また、オーナーが自分ではない場合は、最初にオーナーと目的についてしっかりと認識合わせを行いましょう。
なぜならデータ分析では、目的に応じた仮説(例えば、目標達成にかかわる要因を発見するための仮説、ビジネス課題の原因を発見するための仮設など)を設定するからです。そして仮説を検証することで、それらの解決策をデータから導き出していきます。目的を決めずにデータ分析をスタートさせた場合、工数をかけても期待通りの結果を得ることは難しいでしょう。
しかしながら、実際にデータ分析を行う際にいきなり仮説を立てようとするのは難しいので、目的に応じたアウトカムを設定するところからはじめることをお勧めします。以下、データ分析の手順について簡単に説明します。
1.アウトカムを決める
アウトカムとは「目的に直結する成果」のことを指します。つまり、改善できると嬉しいものがアウトカムの候補です。
そして、データ分析における有力なY軸候補となります。
例)売上、コンバージョン率など
2.解析単位を決める
アウトカムをどの単位で分析するのかを決めます。
例)製品ごとの売上、店舗ごとの売上など
3.説明変数を決める
まずは説明変数と目的変数について説明します。
- 説明変数:結果に影響を与えている要因のこと。
- 目的変数:その要因から影響を受けて起きた結果のこと。
これらの変数を用いるケースとして、因果関係調査や予測などがありますが、ここでは因果関係を調べるために使います。
目的変数にアウトカムを設定して、何が変わればアウトカムが良い方向へ変化するのかを調べていくのですが、これがいわゆる仮説設定に該当します。そして、データ分析におけるX軸候補となります。
4.検証する
いわゆる仮説検証というもので、X軸の説明変数を動かしてY軸の目的変数(アウトカム)との因果関係を調べます。言い換えると、何が変わればアウトカムが嬉しい状態になるかを調べていきます。うまくいかない場合は、説明変数を変えて、別の仮説で検証していきます。
5.評価する
データ分析結果を客観的な視点で評価します。データ分析をすることで「客観的な結論」を得ることができると言われていますが、厳密にいえばデータ分析者が主観的な視点で分析するため完全なる客観的な結論とは言えません。そこでデータ分析作業のミスや考慮漏れなどを分析者以外の視点でチェックすることで、より客観的な結論へ近付けることができます。また、ズルして簡単にアウトカムを良い方向へ変化させることができないかもチェックしておきましょう。
例えば、売上をアウトカムと設定した場合、プロジェクトの赤字を無視して安価な提案を繰り返すことで売上を伸ばす人が現れることが想定されます。このような無謀な営業が評価に繋がらないようにするために、プロジェクトの収支を考慮するなどして、ズルができない別の仮説で検証しなおした方がよいでしょう。
データ分析についての説明は以上になります。あとは現場のオペレーション起点で説明変数を動かすにはどうしたら良いかを検討し、分析結果通りに動くように現場に導入できればゴールです。ゴールとはいえ、導入後の効果測定を行いながら定期的にブラッシュアップを行い一定の品質を保てるように運用していきましょう。
データ活用までの道のりは長いですね。冒頭でもお伝えした通り、データ活用において目的設定が非常に重要です。たとえ目的設定をしていても、途中で目的を見失ったり、目的そのものが変更になってしまう可能性もあるでしょう。既にデータ活用を実践されている皆様は、目的が不明瞭になっていないか、もしくは、目的が変わってしまっていないか、これを機に見直してみてはいかがでしょうか。
データ活用のメリット/デメリット
データ活用についての理解は深まったと思いますが、導入を検討する前にメリットとデメリットは押さえておきたいですよね。まずはデメリットについて把握し、リスクヘッジの準備をしましょう。
■データ活用のデメリット
- とにかくコストがかかる
データ活用までの道のりは長く導入までにそれなりの費用が発生します。例えば、データを収集/蓄積するシステム構築を検討するかもしれませんし、専門スキル保有者を調達/育成を検討するかもしれません。他にも、リテラシーレベルが異なるメンバー間の意思疎通の機会が多いのでコミュニケーションコストが想定より増えてしまったり、予期せぬところで費用が発生する可能性があります。対策としては、規模に比例してコストが増えますので、まずは予算の範囲内でミニマムスタートを切るのも良いですね。 - 期待通りの結果が得られない可能性がある
データ分析結果を参考に今後へ備えるわけですが、未来を確約することは難しいです。また、データ分析の読みが浅く想定よりも分析結果の精度が低かったり、分析対象の市場が急変してしまうかもしれません。対策としては、導入先を絞って試験導入して、導入効果を確認してから本格的に展開してみるのも良いですね。
さて、そんなデメリットに負けないように、ここからはデータ活用のメリットについて紹介します。
■データ活用のメリット
- 迅速な意思決定ができる
データドリブン(データをもとに意識決定や課題解決などを行うこと)ができるようになるため、意思決定までにかかる時間を短縮することができます。しかも、個人の裁量で意思決定を行う場合は結果にバラツキが生じてしまいがちですが、データ分析で得た客観的な結論をもとに判断するため、より公平な結果が期待できます。言い換えると、誰が実施した場合でも同様の結果を導き出せることになりますので、属人化の解消にも繋がります。
つまり、データ活用は業務品質向上と業務コスト削減が同時に実現できてしまうという夢のようなソリューション?!非常に魅力的ですね。 - 客観的な現状把握ができる
企業や商品、地域などに対する個人の直感的な印象は様々と思いますが、対象をデータ分析することで客観的に評価することができます。これにより、今までは色眼鏡で見えなかった側面(嫌いな商品の市場ニーズが高かったなど)が見えてくることがあります。
データを分析することで顕在化している顧客ニーズだけではなく、潜在的な顧客ニーズを把握することができれば、商談の際に顧客にとって魅力的な提案を行うことができるでしょう。また、市場動向を把握することで新たなサービスのヒントを得られるかもしれません。
つまり、データ活用はビジネス戦略において多くのヒントをくれる夢のようなソリューション?!非常に魅力的ですね。
データ活用を行う際はこれらのメリットやデメリットを理解したうえで、リスクに備えつつも最大限の効果が期待できそうな欲張りプランを企画してみましょう。
まとめ
データ活用にかかわるひと通りの説明をさせて頂きましたがいかがでしたでしょうか。
教育機関ではデータサイエンスの必修化が加速しており、今後はデータリテラシーの高い社会への推移が予想されます。目先のデータ利活用だけではなく、データサイエンティストが活躍できる土壌を整え、魅力的な組織作りを目指していきましょう。当記事が皆様の一助となれば幸いです。
執筆者紹介
新卒より中堅Sier企業にて汎用系、Web系、オープン系、そして、機械学習用ライブラリ互換の3rdパーティAIアルゴリズム開発など幅広いシステム開発に従事。ベルシステム24入社後コールセンターを経験し、システム関連部門に配属となり、Avaya製のIVR開発など継続して開発案件に従事。現在は社内データ活用のプロジェクトに参画し、開発部隊の全体指揮を担当している。
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