近年、「顧客体験(CX)」という言葉を耳にする機会が増えていますが、これがどういった概念で、追求することにどのようなメリットがあるのか、正確に把握できていない人も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、CXの概要やマーケティングにおける必要性について、改善事例と併せて解説していきます。
顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)とは?
「顧客体験」とは、「顧客が商品やサービスについて認知し、購入・利用していくうえで接する一連の体験」を意味します。英語名でそのまま「カスタマーエクスペリエンス」と呼ばれたり、英語名を略して「CX」と呼ばれたりする場合もあります。
上記の通り、顧客体験にはさまざまな要素が含まれますが、最終的には「顧客が抱く企業イメージ」こそが重要です。企業が行うすべてのことは、「顧客がその企業をどのように認識するか」という全体的な顧客体験に影響を与えます。それゆえ、たとえ一分野では優れていても、ほかの分野で質が低ければ、それが全体的な顧客体験の低下につながる恐れあるのです。
つまり、企業が顧客体験を向上させるためには、商品・サービスの品質向上はもちろん、広告のデザインや店舗の清潔さ、Webサイトの見やすさ、カスタマーサポートの充実度など、さまざまな改善に取り組むことが欠かせません。
顧客体験が現代ビジネスにおいて重視されるようになったのは、顧客傾向が「モノ消費」から「コト消費」にシフトしたことが深く関係しています。モノ消費とは「モノそのものの品質や所有を重視する考え」をいい、コト消費とは「モノから得られる体験の質を重視する考え」のことです。
例えば、近年一般化しつつあるサブスクは、コト消費の典型例と言えるでしょう。動画や音楽のストリーミングサービスのユーザーは、CDやBlu-rayディスクといったモノを買うのではなく、それを視聴するためのサービスを買います。その際、ユーザーが重視するものは、配信されている動画の充実度や更新頻度、動画の探しやすさや見やすさなど、体験の中身にこそあります。
このように、現代のデジタル社会において、顧客の関心はハード面からソフト面に移ろっています。そして、そこで提供されている顧客体験が優れていればいるほど、リピート率や好意的なレビューは増え、クレームやサービスからの離脱リスクを減らせるのです。
マーケティング・営業活動において顧客体験が重視される理由や背景
顧客体験が重視されるようになった背景には、インターネットの普及によって、顧客の購買活動が多様化・複雑化したことが挙げられます。現在の顧客は、商品の購入前に自分で情報を調べ、さまざまな類似商品を比較検討したうえで、購入する商品を選ぶことが可能です。
このように、顧客が購買活動において多様な選択肢を持つようになった現在、自社の商品を選んでもらうためには、製品自体の品質以外にもアフターフォローの充実度など、そのほかの部分の付加価値こそが決め手になります。また、マーケティング戦略においては、「いかに各顧客にパーソナライズされた分析や施策を実行し、顧客の潜在的なニーズを喚起できるか」が重要となるでしょう。つまり、どれだけ個々の顧客体験のクオリティを高くできるかが、企業の収益増につながるキーファクターと言えます。
顧客体験の向上・改善の取り組みはどう行うべき?成功事例から得るヒント
顧客体験を向上させるには、具体的にはどのようなことに取り組めばよいのでしょうか。以下では、実際の成功事例を基に、顧客体験を改善するヒントを探っていきます。
顧客体験を重視したマーケティング戦略の開祖?「スターバックス」の事例
顧客体験を重視したマーケティング戦略の先行事例として、「スターバックス」の取り組みが挙げられます。
スターバックスは1990年代初頭に事業を拡大し始めた当初から、顧客体験を重視した施策に取り組んできました。コーヒーの味だけではなく、感じのよい接客サービスやおしゃれな店舗デザインなど、顧客がコーヒーを楽しむための環境づくりまで含め考え抜いていたのです。その基本理念は今なお変わらず、季節ごとのフラペチーノの販売や無料Wi-Fiを提供するなど、顧客体験の向上に向けた取り組みを精力的に実施しています。
こうした姿勢は、日本法人のスターバックスジャパンにも当然引き継がれています。例えば同社では、2020年にAR(拡張現実)を使って、お花見を店舗内で疑似体験するイベント「#スターバックスさくら2020」を開催するなど、最新のデジタル技術を活用した独自のサービスも展開しています。スターバックスの独自性は、まさにこうした顧客体験を重視した施策にこそあるのです。
Web会員数が6倍に拡大した東京ガスのCX向上手法
「東京ガス」が近年取り組んでいるWebサービスの充実も、顧客体験向上の一例として挙げられます。
東京ガスはエネルギーの小売自由化を機に、顧客エンゲージメントを強化するための施策として、一般家庭向けポータルサイト「myTOKYOGAS」をリニューアルしました。これに伴い、会員属性ごとに最適化されたコンテンツの提供やキャンペーンを実施。その結果、顧客エンゲージメントが飛躍的に向上し、会員数が6~7倍も増加するなど驚異的な成果を上げました。
そのほかにも、情報サービスに顧客の各種手続きを誘導するチャットボットを導入するなど、デジタルチャネルの強化にも着手し、積極的にIT技術を顧客体験の向上に役立てています。
従来のビジネススタイルが過去のものに?テスラ社のCX向上戦略とは
2003年の創業以来、20年足らずで世界のトップブランドまで駆け上がった自動車メーカー「テスラ」も、興味深いCX戦略を提示しています。
テスラが2016年に発表したEV車「Model 3」は、発表後すぐに予約が殺到し、わずか1ヶ月で約1.4兆円もの見込み売り上げを達成しました。同社はこのModel 3の販売戦略において、クラウドファンディングの方法論を取り入れ、顧客の予約購入を募りました。
「クラウドファンディング」とは周知の通り、プロジェクト成功のために不特定多数の出資者から資金を募るものです。Model 3を予約購入した顧客に対し、テスラは開発状況について定期的に通知するなど、「製品開発を自分達もサポートしている」という実感を提供しました。これによって、予約段階ですでに良質な顧客体験の提供を実現し、多くのファンの心をつかむことに成功しました。
このようにテスラは、オンラインベースでのサポート・販売に注力し、新興企業としてのストーリー性を活かしたブランディングによって、強固なファンベースを獲得したのです。
顧客体験向上のためにマーケティング担当者ができるアプローチとは?
前項では3社のCX施策について紹介しましたが、これらの成功事例から、顧客体験の向上においてどのようなヒントが得られるでしょうか。
まず、いずれの企業にも共通する土台として、「顧客のペルソナやカスタマージャーニーマップを精緻に構築し、顧客目線で顧客体験の向上に注力していること」が挙げられます。顧客体験を向上させるには、顧客がどのような属性を持ち、自社にどのようなサービスを求めているのかを理解しなければなりません。
また、モノや技術に依存しないブランディングの強化も重要です。例えば、スターバックスは単にコーヒーを飲んでいるだけでもおしゃれな雰囲気を味わえますし、テスラは自社のセンセーショナルなサクセスストーリーそのものでファンを惹きつけています。これらは各企業の強力なオリジナリティであり、かけがえのない企業として顧客から認識され、顧客ロイヤリティを向上させる効果があります。
さらに、3社に共通することとしては、デジタル領域におけるカスタマーエクスペリエンス(DCX)への注力も挙げられます。現代ビジネスにおいて、自社サイトやSNSといったデジタルベースでの顧客接点の強化は欠かせません。とりわけ現在はスマートフォンやSNSの普及により、顧客自身が情報発信することも容易になりました。企業と顧客の距離感は従来よりも遥かに縮まっており、双方向のコミュニケーションも可能となった今、デジタル領域における顧客体験向上の可能性は無限に広がっていると言えるでしょう。
まとめ
モノ消費からコト消費へとビジネスモデルがシフトしている現在、顧客体験の向上は顧客を自社に引き寄せ、つなぎとめるうえで重大なポイントになります。顧客体験を向上させるには、マーケティングから販売、アフターフォローに至るまで、顧客が一貫して満足できるサービスを提供することが大切です。
そのためにはまず、顧客のペルソナを精緻に分析してニーズをつかむほか、ブランディングを強化して自社の独自性を高め、そして自社サイトの充実などデジタルベースの取り組みにも力を入れる必要があります。今回紹介した事例も参考にして、ぜひ顧客体験の改善に役立ててください。
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