コンタクトセンターの改革
AIモデルを活用する際の工夫とベストプラクティス

 2024.08.20  竹田 努

以前に「コンタクトセンターはデータの宝庫!データ分析を成功させるための4つのポイント」をテーマに、コンタクトセンターの膨大な情報を活用し、データ分析を行いモデルを生成するまでのアプローチをご紹介いたしました。
今回は、コンタクトセンターで実際に、業務効率化や顧客満足度の向上に向けてAIモデルを効果的に導入・活用するための具体的な工夫やベストプラクティスについてご紹介いたします。

コンタクトセンターの改革 AIモデルを活用する際の工夫とベストプラクティス

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コンタクトセンターを取り巻くAIモデルとは?

大量のデータを基に学習し、更に特定のタスクを自動化または最適化するためのプログラムを設けることで、コンタクトセンターにおいて、顧客対応の効率化やサービス品質の向上が実現します。具体的には、音声認識、自然言語処理(NLP)、機械学習、生成AIなど、さまざまなモデルを使ってコンタクトセンターの運用の高度化を目指します。

  • 音声認識
    • コンタクトセンターにおける音声認識は、顧客との通話をテキストに変換する技術であり、さまざまな場面で利用されています。音声認識の導入により、コンタクトセンターの業務効率や顧客へのサービス品質が大幅に向上します。
  • 自然言語処理(NLP)
    • 顧客とのコミュニケーションを円滑にし、オペレーションの効率を高めるための重要な技術です。自然言語処理(NLP)の導入により、自動応答の質が向上し、顧客満足度を向上させることができます。また、テキスト解析を用いた知識管理により、運用の効率化を図ることができます。
  • 機械学習
    • 機械学習は、コンタクトセンターにおいてデータ解析や業務の自動化を実現するための強力なツールです。顧客データによる予測分析、オペレーションの自動化、パーソナライズされた顧客対応など、多岐にわたって応用が可能です。機械学習の導入により、業務効率と顧客満足度が大幅に向上し、コンタクトセンターの運営において差別化を図ることができます。
  • 生成AI
    • コンタクトセンターにおける生成AI(Generative AI)は、自然言語生成や画像生成など、新しいコンテンツを生成する技術を指します。生成AIは、顧客とのインタラクションをよりパーソナライズし、効率的にするための強力なツールです。顧客との会話内容をベースに自動要約を行い、後処理の削減や、ナレッジコンテンツの自動生成などさまざまな活用シーンで用いられます。
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適切なモデル選定のポイント

コンタクトセンターにおける適切なAIモデルを選定する際には、いくつかの重要な選定ポイントがあります。

1.ビジネス目標とニーズの明確化

  • コンタクトセンターにおけるAIモデルの選定には、ビジネス目標とニーズを明確にすることが不可欠です。業務の自動化を目指す場合は音声認識や自然言語処理が有効であり、顧客満足度の向上には自然言語処理や感情分析ツールなどを用いて応対品質の向上を目指すべきで、顧客行動予測や問い合わせトレンド分析などを行う際は、機械学習などを活用します。

2.データの質と量

  • モデルを活用する上で、十分なサンプル量と精度の高いデータが揃っていることがポイントとなります。データが少ない場合、生成AIや機械学習のモデルに影響が出る可能性があります。また、データの種類として、テキストデータ、音声データ、履歴データなど、どのデータがどの程度存在しているかを事前に把握することが重要です。

3.技術的な制約とインフラ

  • コンタクトセンターにおけるAIモデルの選定では、技術的な制約とインフラの確認が重要です。特に、既存のシステムと新しいAI技術がシームレスに統合できるかを考慮し、音声認識や自然言語処理(NLP)モデルのAPIやクラウドサービスとの互換性を確認する必要があります。また、リアルタイムでの処理が必要な場合、リアルタイム性が求められる音声認識や自然言語処理(NLP)でスムーズなシステム運用による即時対応が可能かどうかを見極めます。

4.コストとリソース

  • AIモデルの導入には、予算と技術リソースの検討が重要です。導入や運用にかかるコストを考え、クラウドベースのAIサービスやオープンソースツールを選ぶことでコストに応じた選定が可能です。また、社内にAI技術の専門知識が不足している場合は、クラウドAIサービスや外部のAIコンサルティングを利用することで、技術的なサポートを受けながら導入を進めることができます。

5.ユーザー体験とフィードバック

  • 使いやすいユーザーインターフェースとフィードバックループの構築が重要です。オペレーターが直感的に操作できるよう、直感的なインターフェースや生成AIによる自然な応答を提供することが求められます。また、AIモデルの精度向上にはユーザーからのフィードバックを取り入れる仕組みが必要で、継続的なモデルのブラッシュアップを考慮することが重要です。

6.セキュリティとプライバシー

  • AIモデルを活用する際に、顧客データのセキュリティとプライバシー保護を考慮する必要があります。データの取り扱いにおいては、情報が不正アクセスから守られるように暗号化を行い、適切なアクセス制御を強化する必要があります。これにより、顧客の個人情報や取引データが安全に保護され、プライバシーが確保されることが重要です。

7.拡張性と将来性

  • 将来のニーズや拡張計画に対応できるよう、モジュール式のアーキテクチャを採用することで、必要に応じて機能を追加したり、システムをスケールアップすることが可能になります。これにより、長期的な成長や変化に柔軟に対応でき、システムの更新や拡張が容易に行えます。

これらの7つのポイントから、ビジネス目標や技術的制約、データの質と量、コスト、リソース、拡張性、ユーザー体験、セキュリティなど、多岐にわたる要素を総合的に考慮する必要があります。具体的なニーズや状況に応じて最適なモデルを選定することで、コンタクトセンターの運営効率と顧客満足度の向上が期待できます。

実運用での工夫と注意点

コンタクトセンターでAIモデルを搭載したシステム(AIシステム)を活用する際の工夫すべき点と、注意点を十分に考慮することが大切です。

トレーニングとサポート

  • オペレーターやスタッフに対してAIシステムの使い方を丁寧にトレーニングすることが重要で、これによりシステムの効果的な活用が促進されます。また、導入後には技術サポートやトラブルシューティングの体制を整え、問題が発生した際に迅速に対応できるようにすることで、システムの安定運用とトラブルの早期解決が可能になります。

データの品質管理

  • データの品質を高く保つことが重要で、誤ったデータや不完全なデータはAIのパフォーマンスに悪影響を及ぼします。そのため、データとモデルのパフォーマンスを定期的にレビューし、必要に応じてデータのクリーニングやモデルの調整を行うことで、AIの精度を保ち、効果的な運用を確保する必要があります。

フィードバックと改善

  • オペレーターからのフィードバックを収集し、AIシステムの改善に活用することが重要です。フィードバックループを確立することで、システムの持続的な改良が可能になります。また、AIモデルが常に最新の情報やトレンドに対応できるように、定期的な学習を行うことで、モデルの精度を維持し続けることが求められます。

パフォーマンスのモニタリング

  • リアルタイムでシステムのパフォーマンスを監視し、異常や問題が発生した際には即座に対応することが重要です。また、システムの成功を評価するために具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、成果を定期的に測定することで、運用の効果や効率を把握し、必要な改善を行うことが求められます。

ユーザー体験の最適化

  • コンタクトセンターでのユーザー体験を最適化するには、オペレーターが使いやすい直感的なインターフェースを構築し、操作の簡便さを追求することが重要です。これを実現するために、UI/UXの定期的な改善が必要です。また、生成AIや自然言語処理を活用して、顧客との対話が自然でスムーズになるようにし、より快適なコミュニケーションを提供することが重要です。

これらの工夫と注意点を実践することで、コンタクトセンターでのAIシステムの運用がスムーズに行われ、効果的な運営と顧客サービスの向上が実現できます。

運用の高度化に向けて

AIモデルを活用してコンタクトセンターの運用を高度化するためには、以下のステップが重要となります。

STEP1 AI戦略の策定

  • 目的の明確化
    • AIモデルを導入する目的を整理し、改善したいプロセスや達成したい基準などの目標を設定します。(例 後処理時間の削減、顧客満足度の向上 など)
  • ロードマップの作成
    • AI導入の計画を立て、短期・中期・長期の目標を設定します。

STEP2 プロセスの可視化

  • プロセスマップの可視化
    • 業務フローを詳細にマッピングし、各プロセスのステップやタスクを明確にします。これには、顧客からの問い合わせの流れ、オペレーターの対応プロセス、エスカレーションの手順などが含まれます。
  • データフローの可視化
    • 顧客データやインタラクションデータの流れを可視化し、どのデータがどのプロセスで使用されるかを明確にします。また、異なるデータソースやシステムからのデータ統合ポイントを可視化し、データの一貫性と正確性を確保します。

STEP3 KPIの策定

  • ビジネス目標との整合性
    • KPIは、コンタクトセンターのビジネス目標や戦略と一致している必要があります。例えば、顧客満足度の向上やオペレーションの効率化など、目標に基づいたKPIを設定することが重要です。

STEP4 従業員の理解

  • AIシステムの利用目的
    • AIシステムを活用する目的をしっかりとオペレーターや管理者に理解浸透させることが重要です。AIシステムはあくまで人の運用を手助けするものであり、オペレーターの負荷軽減や管理者の工数を削減するためのものであることを十分に理解するよう丁寧に説明することが求められます。

STEP5 定着化支援

  • 運用面における定着化支援
    • AIシステムに関する技術的な質問や問題に迅速に対応できるサポート体制を整えます。また、オペレーターからのフィードバックを収集し、実際の運用に役立てる仕組みを構築します。
  • システム面における定着化支援
    • AIシステムのパフォーマンスをリアルタイムで監視し、異常や問題が発生した場合には即座に対応します。また、AIシステムのパフォーマンスデータやフィードバックを基に、継続的な改善を行います。

まとめ

コンタクトセンターの運用をAIモデルで高度化するためには、まずAIシステムの導入目的と計画を明確にし、業務フローやデータフローを可視化してビジネス目標に合ったKPIを設定します。その後、AIシステムの役割を従業員に理解させ、技術サポートやフィードバック機能を整えてシステムのパフォーマンスをリアルタイムで監視し継続的に改善します。これにより、効率的な運用と顧客満足度の向上が図ることができるのです。

執筆者紹介

竹田 努
竹田 努
2004年に入社後、10年ほどは大型コンタクトセンターを中心に、オペレーション、経営企画、営業(プライシング)、事業管理部門など経験。その後シニアマネージャーとして、各種業界(通信、金融、メーカー、小売り、サービス業)のコンタクトセンターのソリューション導入、生成AIの活用や、データ活用など幅広い分野でプロジェクトを牽引。プロジェクト管理、統括責任者としての実績が豊富で、顧客に寄り添うことをモットーにしております。
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