前回の記事では、KCSの歴史的背景や基本的な概念、実用化に向けての流れなどを解説いたしました。
今回は、具体的な導入事例をもとに、KCS導入の工夫と成功のポイントや、具体的なメリットをお伝えいたします。
また、KCSを始める上で心構えなどもご紹介いたします。
導入事例の概要
ベルシステム24では、これまで多くの企業にナレッジ管理に関するコンサルティングをご提供してまいりました。
そこで見えてきた企業が陥りやすいナレッジマネジメントの状況や課題、成功のポイントについてご紹介し、KCSを用いた手法がなぜ有効なのかメリットについて解説したいと思います。
どのような企業がKCSを導入したのか?
- KCS導入企業の共通点と成功のポイント
- KCSを導入する企業には、いくつかの共通点があります。問い合わせ対応の質を高め、業務効率を向上させるために、どの企業も工夫を重ねています。
- i.業務の効率化を重視
- KCSの導入により、問い合わせ対応のスピードと正確性が向上し、オペレーターの業務負担が軽減されています。対応後の処理時間を短縮したり、ヘルプデスクの対応効率を改善したりすることで、全体の生産性を高めています。
- ii.ナレッジのデジタル化と共有
- 紙のマニュアルや属人的な対応を減らし、組織全体でナレッジを活用する動きが進んでいます。FAQの更新を活発にしたり、社内のナレッジベースを強化したりすることで、誰もが必要な情報に迅速にアクセスできる環境を整えています。
- iii.顧客満足度の向上
- ナレッジの活用によって迅速で正確な対応が可能になり、一次解決率が向上しています。問い合わせ数の削減や、エスカレーションの抑制にもつながっています。
- iv.デジタルツールの活用
- ナレッジ管理ツールやAIを導入し、KCSの運用を支えている企業が多くあります。適切なツールを活用することで、ナレッジの維持・更新をスムーズにし、継続的な運用が可能になっています。
- i.業務の効率化を重視
- ある製造業向け技術相談部門では、CRMの刷新とナレッジマネジメントの導入により業務効率化を進めました。旧CRMの保守期限やナレッジの属人化が課題となり、2021年に新たなCRMを導入しましたが、定着せず、2022年に業務アセスメントを実施して本格運用を開始しました。その結果、拡張性向上、運用コスト削減、管理効率の向上を実現し、FAQの活用により休日対応も可能になりました。業務アセスメントを通じて課題を明確にしたことが、成功の鍵となりました。
- KCSを導入する企業には、いくつかの共通点があります。問い合わせ対応の質を高め、業務効率を向上させるために、どの企業も工夫を重ねています。
なぜKCSを採用したのか?
- この技術相談部門がKCSを採用した理由は、以下の課題を解決するためです。
- i.ナレッジの属人化解消
以前は熟練者の知識に依存しており、担当者ごとに対応品質が異なりました。KCSを導入することで、ナレッジを共有・再利用しやすくし、安定した対応を実現しました。 - ii.ナレッジの継続的な改善
旧ナレッジツールではFAQが更新されず陳腐化していましたが、KCSのプロセスを導入することで、問い合わせ対応のたびにナレッジを更新・改善できる仕組みを整えました。 - iii.業務効率化と自己解決率向上
KCSによりFAQの充実を図り、顧客が自己解決できる範囲を広げました。その結果、問い合わせ件数を削減し、休日対応の自動化も実現しました。 - iv.運用コスト削減
問い合わせの削減と業務の標準化により、対応工数の削減につながりました。特に、FAQの充実によって、オペレーターが同じ問い合わせに何度も対応する必要がなくなりました。 - これらの理由から、KCSを導入し、ナレッジの活用と継続的な改善を実現することで、業務全体の効率化を図りました。
KCSを導入すれば何が改善できるのか?
- KCSを導入することで、企業はナレッジの共有と再利用を促進し、オペレーター間での知識の偏りをなくして問い合わせ対応の効率化を図ることができます。FAQやナレッジベースを活用することで、顧客自身が自己解決できる範囲が広がり、オペレーターの負担が軽減されるほか、対応品質の均一化が進み、どの担当者も一定のレベルで問題解決ができるようになります。また、過去の事例を基に迅速に問題解決ができ、新人オペレーターでも短期間でスキルを向上させることができます。さらに、ナレッジの蓄積と更新がシステマティックに行われることで運用効率が向上し、問い合わせ対応にかかるコストや工数の削減が実現できるとともに、ナレッジベースの継続的な改善により、長期的に見ても問題解決能力やサポート品質の向上が期待できます。
KCS導入の工夫と成功のポイント
導入時に工夫したポイントや成功の鍵を紹介します。
(1) ナレッジの質を向上させる工夫
- ナレッジの定期的な更新と改善
- ナレッジは常に最新の情報を反映するように定期的に見直し、運用中の課題や新たな質問に対応できるようにしました。また内部FAQを外部に公開することにより、顧客の自己解決率が増加しました。具体的には、半年で1,000件の新しいFAQが公開され、アクセス数は3万件を超え、問い合わせ件数が500件減少しました。
- 画像や具体例の追加
- FAQには、視覚的にわかりやすい画像や具体的な事例を追加しました。これにより、顧客の理解が早まり、口頭説明よりも効率的なサポートが可能になりました。特に画像を使ったFAQは、迅速な意思疎通に繋がり、対応時間の短縮にも寄与しました。
- KCSのフィードバックループ
- オペレーターからのフィードバックを積極的にナレッジに反映させる仕組みを導入しました。これにより、実際の使用場面に即した、実践的で高品質なナレッジが形成されました。
(2) 従業員の参加を促す仕組み
- ナレッジ共有のインセンティブ設計
- オペレーターが積極的にナレッジを共有するために、貢献度に応じたインセンティブ(報酬や評価)を導入しました。これにより、ナレッジの提供や更新が活発になり、質の高いコンテンツが増加しました。また、貢献したオペレーターが他のチームメンバーにフィードバックを受ける機会が増え、モチベーションの向上にも繋がりました。
- ナレッジ作成のワークフロー明確化
- ナレッジ作成のプロセスを簡素化し、具体的なテンプレートやガイドラインを提供しました。これにより、従業員がナレッジ作成に参加しやすくなり、情報の整合性が保たれました。例えば、FAQの追加や更新の際に、テンプレートを利用することで効率的に質の高い情報が作成されました。
- ピアレビューとフィードバックの導入
- オペレーターからのピアレビューやフィードバックを奨励し、ナレッジの内容を多角的に評価しました。これにより、誤りの早期発見や改善が促進され、情報の精度が向上しました。さらに、レビューの過程で学びが共有され、従業員同士のスキル向上にも貢献しました。
- ナレッジベースの定期的な評価とフィードバック
- 定期的にナレッジの評価を行い、どのナレッジが効果的であったかをデータとしてフィードバックしました。これにより、オペレーターは自分の貢献がどのように活用されているかを実感でき、モチベーションが向上しました。また、不要なナレッジを削除し、無駄を省くことで、全体の質が保たれました。
(3) スモールスタートによる検証
- 少数のナレッジでの初期導入と反応の確認
- 初期段階では、ナレッジの導入を限定的な範囲で行い、少数のFAQやトラブルシューティングガイドからスタートしました。これにより、実際の運用状況やオペレーターからのフィードバックを早期に収集し、改善が必要なポイントを特定しました。最初は10件程度のナレッジを導入し、どれが有効かを見極めることで、無駄を省き、効率的に質の向上を図りました。
- 利用状況のモニタリングと改善サイクルの確立
- 初期段階で得られたデータを基に、ナレッジの使用状況や効果をモニタリングしました。特に、オペレーターの利用頻度、質問後の解決率を定期的に分析し、改善策を講じました。例えば、よく使われるFAQに対して内容を追加・更新し、効果的なナレッジの範囲を広げることができました。小さな範囲で始めることで、迅速な改善が可能となり、ナレッジの質を継続的に向上させることができました。
- フィードバックループの確立
- 運用開始当初から、オペレーターからのフィードバックを積極的に収集しました。ナレッジが期待通りに機能しているか、改善が必要な部分はどこかを確認し、フィードバックを元に内容を修正しました。例えば、「具体的な手順がわかりづらい」との声を受けて、図解を追加することで、理解度が向上し、解決までの時間短縮が実現しました。
- スモールスタートでの成功事例を広げる
- スモールスタートで成果が見られたナレッジ管理の手法を拡大しました。特定の部門で成功したナレッジベースの運用方法を他の部門に展開し、効果を広げました。このように、成功事例を小規模からスケールアップすることで、組織全体にナレッジの質向上を確実に広げることができました。
KCS導入による具体的なメリット
KCSを導入することによる具体的なメリットは、大別すると3つに分けられます。
顧客満足度の向上
KCS導入により、顧客満足度が向上する理由として、FAQやナレッジの充実により、オペレーターが迅速かつ自力で解決策を見つけやすくなるからです。これにより、問い合わせ対応の待機時間が短縮され、スムーズな問題解決が可能となり、顧客のストレスを軽減します。また、質の高いサービスを提供することができるため、顧客からの信頼も増し、満足度向上につながります。
業務の効率化・コスト削減
ナレッジを活用することで、同様の問い合わせに対する回答が一貫して迅速に行えるようになり、対応時間が大幅に短縮されます。これにより、オペレーター一人当たりの対応件数が増加し、リソースの最適化が進みます。さらに、FAQを外部に公開することにより顧客が自己解決できるケースが増え、カスタマーサポートへの依存が減少します。その結果、運営コストの削減とともに、全体的な業務効率の向上が実現します。
従業員のスキル向上と定着率改善
新人スタッフは、ナレッジの参照を通じて独立して業務を進めやすくなり、自己解決力が養われます。これにより、OJT期間の短縮とともに、ストレスの少ない業務環境が作られ、オペレーターの満足度が向上します。結果、オペレーターの定着率が改善し、組織全体の安定性も増しました。一方、ベテラン層にとってはこれまで培った経験から、つい属人的な対応になりがちです。従って、既存メンバーへは、KCSの理解促進と協力を仰ぐことが非常に重要になります。
導入に向けての心構え
KCSは単なるナレッジ管理システムではなく、組織全体の顧客対応力を向上させるための重要な取り組みです。NextActionに向けて考えるべきこととして、KCSを単独のツールとしてではなく、組織全体で共有し活用されるべき文化や運用体系として定着させることが重要です。ナレッジの質を高めるためには、従業員全員が積極的に情報を更新・改善し、常に顧客のニーズに合った回答を提供できるよう努める必要があります。
そのためには、「運用ルールの整備」「従業員の積極的な関与」「テクノロジー活用」が鍵となります。
自社でKCSを導入するにあたり、まずは何から始めるべきか?
初めの第一歩として、組織全体でナレッジを活用する仕組みを取り入れていく上で、少しずつ実践し、成果を感じながらKCSの運用を定着化させていくことを念頭に置き、コンタクトセンターに関わる全従業員が納得感をもってKCSに向き合う ということが最も重要な心構えだと言えます。
まとめ
KCSの導入により、企業はナレッジの共有と再利用を促進し、問い合わせ対応の効率化を実現しています。これにより業務の効率化、顧客満足度の向上、そしてデジタルツールの効果的な活用が進んでおり、さらにオペレーターの負担軽減と対応品質の均一化が実現します。結果として、コスト削減と顧客満足度の向上にも大きく貢献しています。
KCSは単なる仕組みの導入に留まらず、全従業員の意識改革を促し、組織全体の顧客対応力を大きく向上させる原動力となります。
この変革こそが、企業にとって競争力を高める鍵となるでしょう。
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