現在では多くの企業で導入されているチャットボットですが、期待通りの成果を上げられないケースも少なくありません。導入を成功させるためには、事前準備から運用、効果測定まで、様々な要素を考慮する必要があります。今回は、チャットボットそのものの機能や性能ではないところで、意外と大きなつまずきとなっているポイントを挙げながら、成功の秘訣を考えてみたいと思います。
チャットボットの導入の目的
チャットボットが「うまくいっていない」を明らかにするために、まずはチャットボットの導入目的をあらためて考えてみます。
チャットボットの導入目的は、以下のようなものが代表的です。
- コストコントロール
- 電話やメールなどの有人オペレーションコストを削減する
- 繁閑の激しいお問い合わせに対応するためのリソースやコストをコントロールする
- ユーザーへの利便性の向上
- 時間や場所に制限されない窓口の提供
- 平等なサービス提供
- 有人対応に至らないユーザーへのサポートの提供(サイレントユーザー対策)
ほかにも、コンバージョン向上のためのマーケティング施策としての導入があります。
利便性の向上にも大変有効なソリューションですが、やはり何よりもコスト削減が最大の目的になるでしょう。生成AIの登場によって、人間の対応よりさらに最適な回答・解決を提供できるソリューションが間もなく一般的になる可能性はありますが、現段階では、リソースやコストの制約がなければ、有人オペレーションが最も一次解決率の高いチャネルといえます。
柔軟性や寄り添いなど、品質面では有人オペレーションには及ばないものの、リソースやコストを削減できることは、チャットボット導入の大きなメリットであり、それこそが目的といえます。
では、「うまくいっていない」=チャットボットで期待通りのコスト削減できないのはなぜか。
- 利用者が増えない(利用率が上がらない)
- 結局解決できない
チャットボットの課題は、この2点に尽きると思います。この課題を解消できないと、せっかく導入したチャットボットは利用されず、コスト削減が実現できないどころか、ユーザーのCXを低下させる可能性もあります。
今回は、導入目的を「コスト削減」と設定し、「うまくいっていない」場合の代表的なふたつの課題について、考えてみましょう。
利用者が増えない(利用率が上がらない)理由
チャットボットを設置したら、ユーザーがチャットボットにどんどん移行し、便利に使ってくれるケースは非常に稀です。
なんらかの製品リリースやサービスリリースと同時に、チャットボットありきでサポートを開始したケースであれば、当初から多くの利用が見込まれますが、そうでなく、あとから追加チャネルとしてチャットボットを導入したケースでは、特に既存ユーザーがチャットボットに移行するのは非常にハードルが高いです。
なぜなら、既に存在するユーザーの動線上にチャットボットが存在しないからです。電話よりも飛躍的に便利なチャネルにしなければ、ユーザーの動線や行動パターンに変化をもたらすことは難しいでしょう。
もともとの主要チャネルが電話窓口の場合、以下のような実態が考えられます。
- 電話番号が前面に出ている(webサイト、書面、カタログ、会員カードなど)
- 長期ユーザーまたはリピーターが多い
- 電話番号が記録されている(ユーザーの電話帳など)
- webで「〇〇(会社名や製品名、サービス名) 問い合わせ」と検索したら、すぐに電話番号が見つかる
- 電話窓口がフリーダイヤル(無料)である
チャットボットは、webの一部または企業の情報提供サービスの一部として存在はしますが、ユーザーの問い合わせ解決のための一丁目一番地の手段・機能として選択されない状態にあります。
当社でも、各企業様のチャットボット導入を検討する際には、電話番号の露出をどうするか、一方で、チャットボットの設置場所(web・アプリ・LINE)や流入施策をどうするかは、チャットボットの機能やシナリオそのものと同等か、それ以上に重視して設計しています。
いくらチャットボットの機能や情報を充実させたとしても、ユーザーに最初の問い合わせ先として使っていただく機会を得なければ、既存のチャネルからの移行を実現することはできません。
結局解決できない理由
せっかくユーザーが利用してくれたのに、自己解決を実現できない。
これも根本的な問題ですが、意外とよくあることです。
チャットボットで解決できなければ、ユーザーは結局電話することになります。顧客満足の低下にもつながりますし、電話は減りません。
チャットボットを利用したユーザーが体験する「未解決」とは、
- 聞きたい情報がない(見つからない)
- やりたい手続きができない
- それはわかってるんだけど(取説や書類、FAQ以上の情報はない)
主にこういった事態です。
そして、結局その後電話をかけさせてしまうことになります(なかには電話をかけずに諦めて離脱してしまうユーザーがいることも忘れてはいけません)。
現段階では、お問い合わせに対して100%解決できるチャットボットは存在しません。当初の目的が「コスト削減」、具体的に「電話の削減」であった場合、どのようなお問い合わせをチャットボットの対象とするか、具体的に定義し、その実現のためのシナリオや機能を実装する必要があります。
非常に大きな分類ですが、一般的なコールセンターのお問い合わせは以下の4つに大別できます。
当初の目的に対して、チャットボット(自己解決)のターゲットを定義することが重要です。そのうえではじめて、要件、機能を設計し、最適なプロダクト・サービスを選択できます。
たとえば『入電2割削減!』という目的を設定する場合、「1」で2割以上あるのか、「2」も含めると2割以上あるのか・・・という検証を行う必要があります。もちろん、電話のお問い合わせがすべてチャットボットに移行できるわけではないので、お問い合わせの割合×期待される移行率や自己解決率を検討する必要があります。
たとえば「1」の単純質問が1割しかない場合、単純なFAQ型のチャットボットを導入したとしても、入電はほとんど削減できないでしょう。逆に「1」が半数を占めるようなセンターであれば、FAQ型のチャットボットだけで2割の入電を削減することができる可能性があります(移行率や顧客層、前述の移行施策や導線設計が重要になります)。
ちなみに「1」が大半を占めるような窓口は、当社受託業務の場合、官公庁や金融の臨時窓口、自治体、テクニカルサポートの一部など、繁閑があるケースやユーザー層が広いケースで存在します。有人窓口でいうと、オペレーターのトレーニング時間が短いセンターやスキル、FAQを見て回答するような窓口がイメージしやすいと思います。
「1」や「2」を実現するチャットボットは、比較的安価に導入することができます。月間数百件レベルでも、コスト削減を考えることは可能です。
一方で、「3」を実現する場合には、システム連携やDB構築など、導入費用やランニング費用も大きくなる傾向にあります。したがって、当初の目的である「コスト削減」の実現を考えるうえでは、入電量が重要な要素になります。有人窓口でいうと、ユーザー特定の必要なお問い合わせ、登録情報や注文情報の変更など、顧客管理DBや基幹システムを確認するようなオペレーションが対象となります。
既にチャットボットを導入しているけど、あまり活用されていない、そんなときは、窓口のお問い合わせ内容とチャットボット導入時に想定していたお問い合わせを比較してみましょう。
成功の秘訣
ここまで、チャットボットの導入目的の達成、特にコスト削減の観点から、「うまくいっていない」を深掘りしてきました。
以上から、チャットボット導入の成功のカギは、
- チャットボットへの流入施策を徹底的に実行すること
- ターゲットとなるお問い合わせを定義し、それを解決するための機能・シナリオを実装すること といえます。
十分な機能・シナリオを構築したのに利用が進まない…これは、目的であるコスト削減を実現できません。逆に、強力に流入推進したけど、解決率が低い…これはCXを低下させてしまいます。
両方をバランスよく実行することが重要なポイントです。
チャットボットは、あくまでユーザーに提供されたチャネルのひとつにすぎません。ユーザーをそこに集めて自己解決を推進するためには、「電話よりも身近で便利な窓口」として、「知りたい情報が知れる、やりたい手続きができる窓口」である必要があります。
機能やシナリオの設計・構築については、プロに任せれば大丈夫ですが、目的を実現するためのターゲティング、そして流入施策については、導入企業自身やコールセンターの意思や情報が重要であり、コンサルティングの支援を活用するのも有効ですし、コールセンターのコールリーズン分析なども特に有効です。
そして、ここまでしっかり検討し、導入したチャットボットには、継続的な評価やメンテナンスも重要な課題となります。
- サイト訪問者数(アプリユーザー数やLINE友だち数など)
- チャットボット利用者数
- シナリオ毎の利用数
- 離脱ポイント
- 検索キーワード
- 解決数、未解決数(アンケート)
- チャットボット前後のユーザー行動や遷移
- 電話の入電傾向への影響
想定通りチャットボットで解決できたお問い合わせがある一方、そうでないお問い合わせが生じたりします。上記のようなポイントを定期的に分析し、課題の特定と解決を続けることで、徐々に解決率を上げることができます。
流入施策は、設置場所やデザイン、バナーなどの改善、また、SEO対策として、チャットボット設置サイトへの誘導を組み合わせるのも効果的です。シナリオの改善は、上記のような指標を観察し、表現や順序の変更、シナリオの追加・分割、シナリオ入替や統合を進めることで実行できます。
一方で、どうしても完了率が改善しない部分が発見されるかもしれません。その場合は、当初のターゲティングに遡って、チャットボットで自己解決できるお問い合わせか改めて検証するのが良いと考えます。シナリオの見直しでは改善できない部分は、早めに有人窓口へ誘導する判断が必要な場合もあります。
また、お問い合わせ自体も変容することがあるため、旬なお問い合わせやユーザー行動の傾向分析なども合わせて行い、ニーズを満たしたシナリオにアップデートすることも重要です。
まとめ
「チャットボット導入が失敗する理由」は、目的や目標の設定次第というところもあり、非常に難しいテーマですが、今回は、世の中に溢れているチャットボットを、当社で構築、導入している経験や、私個人の1ユーザーとしての視点を踏まえて考えてみました。
主要なお問い合わせに対して必要なシナリオや情報が網羅できているか、入り口が自然と誘導されるような位置に備わっているか、というのは、どの業界・業種でも共通して重要なポイントだと思います。
ターゲットさえ決まれば、シナリオはコールセンターのトークスクリプトをベースに、比較的容易に設計できます。電話よりも入りやすい入り口と、多くのユーザーが直面するお問い合わせへの対応を実現すること、そして、継続的なメンテナンスをすることが、成功のために重要なカギといえます。
執筆者紹介
入社後、弊社オペレーションマネージャーとして多種多様なコンタクトセンター業務設計・構築・運営管理を経験。2013年からは、弊社神戸SCのGMとして、様々な業界のBPO実現と、その高度化のための各プロジェクトを主導。
コンサルティング部でも、センター実態を踏まえた実効性のある業務改善、ナレッジマネジメントを推進。また、Voicebot導入、音声認識の実用化など、DX推進やセンター高度化のコンサルティングも行っている。
- TOPIC:
- チャットボット/ボイスボット
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