現代は情報通信技術の加速度的な進歩に伴って市場の変化が加速しており、さまざまな分野でデジタル技術の活用による変革、すなわち「DX」の実現が重要課題となっています。中でも、新しい時代に即した経営体制の構築を求められているのが、小売業界です。本記事では、小売業界の現状や課題を考察するとともに、DXの必要性や推進事例などについて解説します。
小売業界の現状
20世紀後半から21世紀初頭にかけて起きたIT革命以降、インターネットの利用率は爆発的に増加しており、ECサイトの普及と売上拡大によって実店舗での販売機会が減少傾向にあります。また、2020年3月にパンデミック認定された新型コロナウイルスの感染拡大により、さらにECサイトの市場規模は拡大しており、苦境に立たされている小売事業者は少なくありません。
このような現状を打破するためには、デジタル技術の戦略的活用による経営改革が不可欠であり、小売業を展開する企業ではニューノーマル時代に即した販売体制の構築が求められています。
小売業界が抱える課題
小売業界が抱えている重要な経営課題は、ECサイトの台頭による販売機会の減少だけではありません。国際的な社会情勢や国内の社会的背景、デジタル活用の推進といった要因が重なり、さまざまな課題や問題が複雑に絡み合っています。中でも小売業にとって重要課題となっているのが、以下に挙げる3点です。
- 原材料のインフレ
- 労働力の不足
- 在庫管理の複雑化
原材料のインフレ
2022年2月24日、ロシアがウクライナへの侵略を開始したことで、広範囲のサプライチェーンに混乱が生じ、特にヨーロッパから原材料や部品などを輸入している生産者に大きな打撃を与えました。このウクライナ情勢の悪化によって、エネルギー価格や各種原材料、物流費などが高騰し、円安の進行も相まって国内では物価騰勢が一段と強まる展開となっています。
輸入コストの増加を値上げで対応する産業が増加しているものの、景気上昇によるインフレではないため、モノが売れなくなるリスクを懸念して値上げに踏み切れない小売事業者が少なくありません。
労働力の不足
小売業界のみならず、国内のさまざまな分野で重要課題となっているのが、「労働力不足の深刻化」です。国内の総人口は2008年を頂点として下降の一途を辿っており、それに伴って生産年齢人口も1992年をピークに減少し続けています(※1)。
また、小売業界はほかの業界と比べて長時間労働かつ低賃金になりやすく、生産性が低いため、労働力不足が起きやすい業界です。国内全体で労働力不足が深刻化する中、小売事業者が生産性の向上を図るためには、最先端のデジタル技術を戦略的に活用し、いかにして既存の業務プロセスを省人化するかが重要課題となります。
(※1)参照元:平成27年版 厚生労働白書(p.4・p.25)|厚生労働省
在庫管理の複雑化
小売業を営む企業にとって、在庫管理の最適化は非常に重要な経営課題のひとつです。在庫不足に陥れば、欠品によって販売機会の損失につながり、反対に在庫過多に傾けば、管理コストの増大やキャッシュフローの悪化を招く要因となります。
近年では、実店舗とECサイトの両軸で事業を展開する小売事業者が増加傾向にありますが、オフラインの販売経路とオンライン上のチャネルを管理するのは容易ではなく、在庫管理の複雑化に悩まされている企業は決して少なくありません。そのため小売業では、どのようにしてオフラインとオンラインのチャネルを融合し、効率的な販売体制を構築するかが課題となっています。
小売業界の課題解決にはDXが必要
ウクライナ情勢の悪化による原材料費の高騰や労働力不足の深刻化、在庫管理の複雑化など、さまざまな課題を抱えている小売業界が持続的に発展していくためには、「DX」の推進が不可欠です。DXとは「Digital Transformation」の略称で、「デジタル技術の活用による変革」を意味します。DXの本質的な目的はAIやIoT、クラウドコンピューティングなどのデジタル技術を活用し、既存の経営体制やビジネスモデルそのものに変革をもたらすことです。
国際経営開発研究所が2022年9月に公表した「世界デジタル競争力ランキング2022(※2)」によると、日本は63ヶ国中29位と、デジタル化の遅れが顕著な国です。とりわけ小売業界はデジタル化が進んでいない分野であり、旧態依然としたアナログ的な業務プロセスの変革が求められています。そのためにはDXの実現が不可欠であり、デジタル技術の戦略的な活用によって業務プロセスの省人化を図り、競合他社にはない付加価値を創出する経営体制の構築を推進していく必要があります。
(※2)参照元:World Digital Competitiveness Ranking|国際経営開発研究所
DXで成功した小売企業の事例
DXの推進において重要な施策のひとつは、他社の成功事例から学びを得て、その本質を自社のビジネスモデルに応用することです。ここでは、DXの推進に成功した小売企業の事例をご紹介します。
家電量販店の事例
国内の家電量販チェーンである株式会社ビックカメラは、2022年6月に「DX宣言(※3)」を発表し、オフラインとオンラインを融合させるOMO戦略を推進すべく、DX・DC本部を設立しました。
同社はIaaS・PaaS型のクラウドサービス「Amazon Web Services」を全面採用し、システム開発の内製化を推進するとともに、実店舗とECサイトの垣根を越えた顧客体験の提供に取り組みます。その結果、ネットでの取り置きサービスや店頭での電子棚卸などを実施し、競合他社にはない新しい顧客体験の創出に成功しています。
(※3)参照元:パーパス実現に向けてDX宣言を発表|株式会社ビックカメラ
インテリア用品を扱う企業の事例
株式会社ニトリや株式会社島忠などを傘下にもつ株式会社ニトリホールディングスでは、グループ経営を支えるIT戦略として、DXの推進が重要課題となっていました。そこで同社は、傘下の物流事業会社とともに変革を推進し、AI技術を用いた配送ルートの最適化やシステム開発の内製化、ブロックチェーンによる物流情報の電子化などに取り組みます。製造・物流・販売に至る一連のプロセスをグループ全体で統合的に管理することで、「製造物流IT小売業(※4)」という新たなビジネスモデルの確立に成功しています。
(※4)参照元:ビジネスモデル紹介|株式会社ニトリホールディングス
小売DX成功のキーワードは「OMO」
上記の成功事例における共通点のひとつが、オフラインとオンラインの融合です。実店舗とオンライン上のチャネルにおける境界線をなくし、一貫性の高い顧客体験の提供を目的とするこのマーケティング手法を、「OMO(Online Merges with Offline)」と呼びます。店舗やECサイトといった垣根を越え、すべてのチャネルにおける顧客データを融合して顧客接点を強化し、優れた顧客体験を提供することがOMOの本質的な役割です。
現代はインターネットとスマートフォンの爆発的な普及に伴って、消費者の情報リテラシーが高まっており、「インターネットを活用した情報検索」という購買行動が加わっています。そのため、性能や価格などの機能的価値に基づく訴求では、消費者の心を捉えるのは難しくなりつつあります。そのような中、競合他社との差別化を図るためには、優れた顧客体験の提供という情緒的価値が必要です。小売事業者が新しい時代に即したビジネスモデルを構築するためには、オフラインとオンラインを融合させた多角的なOMO戦略の推進が求められます。
まとめ
IT革命以降、ECサイトの爆発的な普及と市場の拡大により、消費者の実店舗での販売機会が減少傾向にあります。また、小売業界はウクライナ情勢の悪化による物価の高騰や、少子高齢化に起因する労働力不足、デジタル化の推進に伴う在庫管理の複雑化など、さまざまな課題や問題を抱えている業界です。
このような現状にある小売業界が持続的に発展していくためには、デジタル技術の戦略的活用による経営改革が必須といっても過言ではありません。オフラインとオンラインの垣根を越えた新たな顧客体験の創出を目指す企業様は、ぜひ下記資料をご一読ください。
- TOPIC:
- ノウハウ
- 関連キーワード:
- 業務改善・高度化