コンタクトセンターの顧客満足度向上の取り組みは長年継続され、仕組み化できている組織も多い。一方で、評価の固定化などにより、次の改善点が見つけにくい状態になり、顧客満足度向上の意義が感じにくい状態に陥ってしまうケースも散見される。
今追うべき指標は何か、顧客体験(CX)が重要だと言われて久しい現場におけるNPS®について考えてみたい。
現状のその先へ
- 「わが社の顧客満足度は、5点満点のうち、ここ10年余り4.8点が続いている。残りの0.2を埋めて満点をもらうために活動しているが、正直何を改善すれば良いのか、見当がつかなくなっている。」
- 「コンタクトセンターが目指す指標で最適なものが何か、探している。」
- 「顧客ロイヤルティ指標のNPS®を導入したが、うまく活用できていない。」
上記のようなご相談をいただくことは少なくない。
ビジネス環境や生活様式が変化し続け、顧客ニーズの多様化も進む昨今、顧客満足(CS:Customer Satisfaction)と合わせて顧客体験(CX:Customer Experience)が注目されている。
特に、コールセンターを含むコンタクトセンターは直接の顧客対応が発生する拠点であり、CSおよびCXの向上に率先して取り組む必要のある部門である。
実際に各コンタクトセンターでは、取り組みの粒度は違えども、改善活動を進めている現場は多い。顧客から受ける不満や要望やお申し出に対応を行った後にアンケートを実施、不評のあった対応については現場に指導し、対象顧客へのフォロー対応や同じことが起こらぬ様にセンター内での周知を行い、活動をアップデートしていく改善サイクルの実行だ。
ただ、このサイクルを回す上で、
- 不評を得ない様に、良い対応ができた顧客にだけアンケートを送付する。
- 経年推移を見ることを優先し固定化した項目で満足度を測るだけの活動になっている。
- 今までのアンケートにNPS®を追加しただけで、活用方法が考えられていないままである。
などの状況が続いている場合は、上記のお悩みが発生しやすい状態であり、非常にもったいない。
改善の取り組みを行っているにも関わらず、これ以上何を改善すればいいかわからない、何が改善されているのか実感できない、改善活動自体が何に貢献しているのかわからない、というお悩みを持っているとしたら、この機会にコンタクトセンターにおけるCS、CX、そしてNPS®について見直していただくことをおすすめしたい。
CS,CX,そしてNPS®
顧客満足(CS:Customer Satisfaction)とは
CSは、企業が提供する商品やサービスに対して、それを購入・利用した顧客がどの程度満足したかという「結果」に対しての評価である。代表的な顧客満足度の指標として「CSAT」がある。コンタクトセンターにおいては、問い合わせ対応の満足度を測るのが一般的である。
顧客体験(CX:Customer Experience)とは
CXは、企業の提供する商品やサービスを購入・利用したときに顧客が感じる一連の体験における心理的な価値のことである。商品やサービスに関わる「プロセス」全体の評価であり、CXによって生み出される顧客ロイヤルティを測定する指標がNPS®である。コンタクトセンターにおいては、問い合わせ対応に至るまでと問い合わせ対応における一連の体験をCXとして捉えることが多い。その場合、NPS®も問い合わせ対応のおけるNPS®として測るのが一般的である。
NPS®とは
NPS®はNet Promoter Score(ネット・プロモーター・スコア)の略称で、企業の提供する商品やサービスを勧める人がどれだけいるかを測る、顧客ロイヤルティの指標だ。収益との相関性が強い指標と言われていて、顧客ロイヤルティ向上と収益向上の相関を検証していけば、CX改善の意義と効果を捉えやすくなる。(こちらの記事もご参照ください。)
「あなたは商品やサービスを親しい友人や知人にどの程度すすめたいと思いますか。」という質問に対して、顧客に0〜10の11段階で回答してもらう。回答した数値を、9,10が推奨者(プロモーター)、7,8が中立者(パッシブ)、0~6が批判者(デトラクター)と3つのグループに分け、推奨者の割合から批判者の割合を引いて算出された数値が、NPS®となる。どれだけ商品やサービスを勧めてくれる人がいるか、ファンがどれだけいるか、という割合を表している数値だ。顧客の笑顔の割合からしかめっ面の割合を引いているとイメージすると現場でも数値の意味合いがわかりやすいかもしれない。
このNPS®は、Net Promoter System(ネット・プロモーター・システム)とも呼ばれている。推奨者を創り出す仕組みのことであり、NPS®を採用するということは、単に顧客ロイヤルティのスコア測定としての利用だけでなく、コンタクトセンター全体もしくは全社で推奨者、つまりは顧客の笑顔の数を増やす取り組みをしているというメッセージを込めることができる。加えて、近年NPS®を開発したベイン・アンド・カンパニーから発刊された『「顧客愛」というパーパス<NPS®3.0>』(著者:フレッド・ライクヘルド、ダーシー・ダーネル、モーリーン・バーンズ (著)、大越 一樹、髙木 啓晃 (監修・解説)、鈴木 立哉(訳)、出版社:プレジデント社)では、NPS®はネット・パーパス・スコアであるとも言及されている。多くの人々が共有していると思われるものの一つには、意義と目的に導かれた毎日を送りたいということ、この世界をより良き場所にしたいという願い・パーパスがあるとされ、NPS®を活用すると、従業員は自分が接している人々の生活をいかに豊かにしているかがわかると書かれている。実際に弊社の従業員エンゲージメントに関する自主調査においても「企業が顧客志向である」と答えた従業員の方が、従業員エンゲージメントが高いという結果が出ている。自らの働きが事業のどの力になっているかが自覚できている組織は、働きやすい組織だと言える。NPS®を正しく設計して導入すれば、NPS®は組織のネット・パーパス・スコアになり、そのパーパスの達成に向けた進捗度合いを測ることができる。
このように、NPS®は顧客ロイヤルティを測る指標としての利用だけでなく、組織マネジメントの指針としても活用ができるのである。
顧客満足度は商品やサービスの現状までの結果評価を測っているのに対して、NPS®はCXによって生み出された顧客ロイヤルティと顧客との今後の関係性を測っていると言える。各CXの満足が高まれば顧客ロイヤルティの向上が望め、顧客との継続的な関係性を望むことができることから、顧客満足の先にある顧客ロイヤルティや顧客との関係性が分かるNPS®は有効に利用していきたい指標である。
コンタクトセンターでのNPS®活用のポイント
では、コンタクトセンターでNPS®を活用するためには、どうしたら良いか。次の5つのポイントを考えていただきたい。
1)アンケート設問の見直し
まず、現状のアンケートを見直していただくと良い。経年で測定している項目はあると思うが、一旦項目は置いておき、コンタクトセンターの目的や事業の目的を再確認し、目的達成のために測定する必要がある項目は何かを再考いただきたい。
NPS®については、ブランドや商品・サービスのNPS®を測定するリレーショナルNPS(R-NPS)と各顧客接点や業務プロセスのNPS®を測定するトランザクショナルNPS(T-NPS)の大きく2種類あるが、コンタクトセンターでは問い合わせ対応についてのT-NPSを測定するのが一般的だ。問い合わせ対応の評価をNPS®で、そのNPS®評価をするにあたって問い合わせ時の各体験はどのように影響したかを影響度または満足度で回答を得る。そうすることにより、総合満足度をNPS®として、各項目の評価を今までの満足度評価に置き換えることもできる。
また、NPS®と収益性の相関を見るために、コンタクトセンターの対応によって、商品やサービスの再利用意向やR-NPS®を聞き、事業にポジティブな影響を与えたかどうかを検証すると、改善活動の意義を感じやすくなる。
2)顧客評価と自社認識のギャップの可視化
また、顧客アンケートを従業員が顧客目線で回答することで、顧客評価と自社認識との比較が可能になり、ギャップを可視化すると改善の示唆を得ることができる。顧客が十分だと感じている項目に対して、自分たちではまだ足りないと感じていたり、逆に自分たちでは十分できているが顧客からするとまだ足りないと感じている項目も浮き彫りになってくる。どこから何を改善した方がよいかが不明確な組織においては、組織内の課題を可視化して議論を前に進める力になる。顧客向けのアンケートを従業員が顧客目線で答えるだけの取り組みなので、ローコストで実施しやすい。
3)従業員エンゲージメントの把握
業務を行っている従業員に働く意欲があるかどうかは重要である。いくら顧客評価がきちんと測れていたとしても、従業員がこの職場で頑張ろうという気持ちになれなければ、顧客体験が改善しにくい。定期的に従業員エンゲージメント(eNPS℠: employee NPS)のスコアの把握と、NPS®同様に、従業員エンゲージメントを高めるための取り組みが行われる必要がある。
4)テキストの深掘と省力化
CX向上のための具体的な施策ヒントは、アンケートのフリーアンサーに潜んでいる場合がある。1つずつのコメントに目を通すのもよいが、コメントを読み込む業務が熟練の技になっていることが多い。特定のスタッフに負荷がかかり続けること、コメント振り分けの基準が属人的になってしまうことを解決する手段としてテキストマイニングの活用を検討したい。特にコメント数が膨大な場合は、まずはテキストマイニングを行い、重要な話題を捉えた上で、深掘りでコメントをみていくと効果的かつ効率的である。
これまでのテキストマイニングでは、キーワード自体の頻出度合いやキーワードごとのかかり受けを表現して分析されることが一般的であった。一方、弊社開発のテキストAI分析サービス『TopicScan®︎(トピックスキャン)』は、キーワードではなく一つの話題(トピック)として文書を捉えることができる。そのため、コメント全体の状況を掴みやすく、具体的施策に落とし込むまでのスピードが早くなる。この技術はアンケートのフリーアンサーにとどまらずに、コンタクトセンター内のコールログや問い合わせメール内容や社内の日報の傾向分析などにも適用できる。センター業務の省力化が求められている現場では一度検討いただきたい手法だ。
5)全社での社内推進力の強化
NPS®を向上させるために取り組むCX向上に必要なCXマネジメントは、1部門で成し遂げることは難しい。小さな成功を積み重ねていく必要があるため、コンタクトセンター内で行える改善から着手をしてほしいが、顧客体験はコンタクトセンター外にもある。コンタクトセンターには、コンタクトセンター外で起こった出来事についての不満や要望が集まっている。
あるコンタクトセンターの調査では、オペレーターの問い合わせ対応に関する項目はほぼ満点の評価であり、評価を損なっていた顧客体験は「電話の繋がりにくさ」や「WEBのわかりにくさ」であった。この場合できることは、電話回線を増やすのではなく電話をかける動機となるお困りごとを特定し改善することや、スタッフが先回りして気の利かせた案内をすることではなくWEB上で困ったことがあったその時点で顧客に寄り添い案内ができるようにすることである。この様な状態を創り出すことは、すでに弊社グループ会社、プレイドが提供するCXプラットフォーム『KARTE』やWebサポートプラットフォーム『RightSupport by KARTE』を活用することで実現ができる。システム導入のコストが気になるが、顧客が受ける心理的負担や毎回その様な顧客対応に腐心するスタッフの労力をコスト換算していただくと、検討いただきやすいかもしれない。
まとめ
指標とは、組織が成し遂げようとしている状態を表す数値である。まだ組織全体で目指すべき数値が明確に定まっていないコンタクトセンターもあれば、成熟したコンタクトセンターでは、すでに目標としていた顧客満足度が高止まりしてしまっているかもしれない。
その様な場合は、顧客評価、従業員評価との両面を捉えながら、顧客にも従業員にも最高の体験を届けることを目指すNPS®の活用を検討してみてはいかがだろうか。
注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、ネット・プロモーター・スコア及び、NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の登録商標又はサービスマークです。 eNPS℠はベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、NICE Systems, Inc.の役務商標です。
*Net Promoter®およびNPS®、Predictive NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズ(現NICE Systems,Inc)の登録商標です。
また、eNPS℠は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズ(現NICE Systems,Inc)の役務商標です。
執筆者紹介
Account Engagement Team Manager /エグゼクティブXMディレクター
WEBサービス会社にて、オンラインコミュニティサイトの構築や子会社代表としてネット上のリスクマネジメント・レピュテーションマネジメントの観点からネットモニタリングやクチコミレポートサービスの開発・運用を推進。セミナー講演など外部活動も多数。2015年3月からエモーションテックに参画。多数のNPS®導入や運用に関わり、実践的CXM・EXMコンサルティングに従事。Gallup社認定ストレングスコーチ。
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