どれだけよい製品やサービスを提供しても、それらを通して顧客が満足しなければビジネスは成り立ちません。本記事では、顧客により良い体験を提供するためのUXデザインとカスタマージャーニーマップについて解説していきます。カスタマーサービスの品質向上にお役立てください。
UXデザインとカスタマージャーニーマップ
成熟した市場において、商品・サービスはどれも横並びになりやすく、他社との差別化は難しくなります。そこで着目すべきなのが、顧客が商品・サービスの利用、企業との関わりでどのような体験をするかです。
より良い体験を提供できれば、顧客の信頼を獲得し、自社のファンになってもらえます。これはマーケティングや販促、商品開発だけでなく、企業と顧客の架け橋となるコンタクトセンターにもあてはまります。
そして、施策を考えるにあたって「顧客がどのように感じるか」を推測し、顧客の満足度を引き上げるために重要となるのが、UXデザインとカスタマージャーニーマップです。
UXデザインとは
UXデザインとは、ユーザーエクスペリエンスデザイン(User experience Design)を略したもので、ユーザーが商品・サービスを通して得られる体験をデザインすることを指します。
機能や価格で他社と比較するのではなく、顧客がどのように感じるか、どのように行動するかに着目して商品・サービスを設計します。さまざまなチャネルを通して顧客と接するコンタクトセンターにおいても、UXデザインを意識した対応フローは、顧客エンゲージメントを高める重要な施策となります。
カスタマージャーニーマップとは
UXデザインを設計する上で中心となるツールが、カスタマージャーニーマップです。直訳すると「顧客の旅の地図」という意味で、顧客が商品・サービスの購入に至るまでの行動や感情を段階的に示したものです。
顧客のペルソナ(人物像)を設定し、そのペルソナが体験するサービスを最初から最後まで可視化することで、より良いUXデザインの設計に役立てます。顧客の態度変容プロセス(心理状態の変化)を明確にできるので、どのタイミングでどのようなコミュニケーションを取るべきなのか、課題や改善点を浮き彫りにできます。
ただし、顧客の欲求や行動様式は多様化しており、どれだけ緻密な想定をしようとも、完璧なカスタマージャーニーマップを作ることは不可能です。完璧なマップの作成を目指すのではなく、事業の目的に応じて適切なものを作成し、アジャイル開発のように都度改善していくという考え方で取り組みましょう。
UXデザインのプロセス
UXデザインは、次のプロセスで設計していきます。
- 目的とKPIの設定
- ユーザーの調査・分析
- ペルソナとカスタマージャーニーを設計
- 商品・サービスの開発とリリース
- 評価・改善
各段階で行うことは以下の通りです。
- まずはUXデザインを行う目的と、KPIを設定します。KPIは重要業績評価指標ともいわれ、目的を達成するための中間目標を指します。たとえば、コンタクトセンターを通した契約獲得を目的とするなら、問い合わせ件数やアポイント獲得数がKPIとなります。
- ユーザーの調査・分析では、ユーザーが普段どのような生活を送っているか、日々どのような欲求や心理をもっているかを調べます。ユーザーの声を直接聞けるコンタクトセンターは、その業務自体が調査・分析で重要な役割を果たせます。
- 調査・分析でデータを得たら、ペルソナおよびカスタマージャーニーの設計を行います。データをもとに具体的なユーザー像を設定し、そのユーザーがどのような体験を経て購入等に至るかシナリオを描きましょう。このときの設計を可視化し、わかりやすくするツールがカスタマージャーニーマップです。
- ペルソナおよびカスタマージャーニーができたら、その内容を商品・サービスに落とし込みます。ユーザーが理想的な体験を得られるよう開発要件を定め、リリース後のサポートまでフローを組み立てます。
- テストや本実装を行った後は、顧客の反応を見て製品・サービスを評価・改善し、次の開発へとつなげていきます。調査・分析のプロセスと同じように、コンタクトセンターに集まる「顧客のリアルな声」が重要なデータとなるでしょう。
カスタマージャーニーマップが必要な理由
カスタマージャーニーマップを実際に作るときは、フレームワーク(枠組み)に顧客の購買行動をあてはめて可視化します。
枠組みにあてはめてまで可視化する理由は、顧客がもつ思考や感情の流れを把握するためです。顧客の購買行動をいくつかの段階に分けて、その時々の思考や感情を整理することで、点ではなく線で顧客の行動心理を読み解きます。
また、フレームワークに落とし込むことで、誰が見ても共有認識を得ることが可能です。他部署と連携してUXデザインを設計する上でも、カスタマージャーニーマップによる可視化は必要となります。
カスタマージャーニーマップの作り方
企業によって多少の差異はありますが、カスタマージャーニーマップの作り方には基本の型があります。ここからはその基本的な型を解説していくので、まずはたたき台となるマップを作成し、繰り返し改善を施していきましょう。
ゴール設定
まずはゴールを設定し、何のためにカスタマージャーニーマップを作るのか決定します。ゴールによってカスタマージャーニーマップの内容も変わるので、適切な設定が重要です。
例えば、「タイムセール商品の購入」と「有料サロンの継続利用」だと、想定すべき情報のスケールが異なります。適切なゴール設定をもとに、集める行動プロセスやその時間単位を想定しましょう。
ペルソナ設定
次に、自社の顧客となるペルソナを設定します。既存顧客がいればデータを参照することもできますが、新規プロダクトでは市場リサーチなどが必要です。
大切なのは、年齢や性別といった表面的な情報だけでなく、趣味嗜好や性格、仕事や日常生活、家族構成まで深く掘り下げることです。ペルソナが明確なほど、精度の高いカスタマージャーニーマップになります。
大枠の作成
次に大枠を作ります。既存のテンプレートを使うか、自社で新しく作成しますが、基本的に縦軸と横軸のある表を使います。
横軸は「商品の認知」「情報収集」「体験・購入」というように、カスタマージャーニーを段階化した項目を作ります。縦軸は「行動」「思考」「感情」といった顧客の反応や、「タッチポイント(顧客との接点)」「その時々の課題」などを項目化しましょう。
顧客の行動・感情の整理
大枠を作成したら、各項目を埋める内容を整理していきます。とくに重要なのは、顧客の行動・感情を整理することです。
設定したペルソナがどのように行動し、どのような感情を抱くのか、段階化したプロセスごとに想定していきます。ただし、各プロセスを分断して考えるのではなく、すべてがつながってひとつの流れになっていることを意識して想定しましょう。
タッチポイントの設定
顧客の行動・感情を整理したら、タッチポイントも設定します。タッチポイントとは、顧客と商品・サービスの接点となる場所です。
店舗や自社ホームページ、各種広告やSNS、外部サイトなど、顧客が自社と関わる媒体やサービスがあてはまります。顧客からの問い合わせが集まるコンタクトセンターも、タッチポイントのひとつです。
マッピング・ニーズの発見
行動・感情やタッチポイントなどの要素を整理したら、マッピングをします。作成した大枠に各要素を埋めていき、カスタマージャーニーマップを完成させましょう。
要素を埋め終わったら、満たせていないニーズはないか確認します。どうしたらニーズを満たせるかを考え、考えられる課題点やその対応策を検討した上で、施策立案へ移りましょう。
カスタマージャーニーマップを作る際のポイント
カスタマージャーニーマップを作る際は、顧客に共感し、ペルソナを深掘りすることが大切です。ペルソナをもとに、顧客が商品・サービスを選ぶときは何を基準としているのか、どのような部分で購入をためらうのか、意思決定のポイントを掴みましょう。商品選択のネックになる部分が見つかれば、そこを崩すことで大きなビジネスチャンスが生まれます。
ただし、最初から複雑なカスタマージャーニーマップを構築しようとしても、なかなかうまくいきません。先述した通り、繰り返し改善していくことを前提に考え、シンプルなものから始めてみましょう。実際に施策をスタートさせてから、新しい発見や不足する情報を足していくことで、より精度の高いマップを作れます。
まとめ
現代は市場が成熟し、顧客が商品・サービスを選ぶ目線も厳しくなっています。ただ良いものを提供するだけでなく、顧客自身も気づいていない内面のニーズに応えることがビジネスでは大切です。
カスタマージャーニーマップで顧客の行動や心理を分析し、それらに沿ったUXデザインを行うことで、業務体制を効率化しつつ顧客満足度の向上も実現できます。コンタクトセンターでも業務フローにも適用できるので、適切な施策を打って顧客の信頼を獲得しましょう。
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