チャットボットとは、コールセンターなどの企業への問い合わせなどで使用されている自動応対システムです。本記事では、チャットボットの歴史や仕組み、導入形態の種類など基本的な知識を詳しく解説します。そのほか、チャットボットの種類であるルールベース型とAI型の違いやそれぞれに向いている運用方法、企業での活用例なども紹介します。また、チャットボットを導入・運用するメリット・デメリットも詳しく解説しているため、チャットボットの性質を細部まで理解可能です。
自社の問題解決に適したシステムを選ぶ際の参考として、チャットボットの導入にお役立てください。
チャットボットとは?
チャットボットとは「会話」を意味する「チャット」と「ロボット」を組み合わせた造語です。チャットボットには通常、複数の回答例を事前に登録しており、ユーザーからの問い合わせ内容に適した回答例を選択し、自動応答します。
ユーザーからの問い合わせへの回答は基本的にテキストベースですが、最近では音声ベースの製品や多言語対応できる製品も増えているなど、進歩が著しい状況です。
チャットボットは24時間365日自動応答できるため、幅広い業界のコールセンターや社内問い合わせ窓口などで活躍し、DXの推進や人材不足への対応などにも役立っています。
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チャットボット誕生の歴史
チャットボットの元祖は、1966年に開発された人工知能「ELIZA(イライザ)」です。「ELIZA」は、入力キーワードに対応した単純な文章で回答するプログラムです。
「ELIZA」は初期の自然応答プログラムだったため、簡単な文章で回答するレベルでした。その後進歩を続けた人工知能は、2011年発売のiPhone 4Sに搭載された「Siri(シリ)」によって、一般的に認知されます。
それまでの人工知能はテキストベースでしたが「Siri」には音声認識機能が搭載され、ユーザーと音声でやり取りが可能になりました。利便性が高まった「Siri」の登場で、人工知能の知名度は上がっていきました。
注目を集める背景
新型コロナウイルスの影響で、実店舗よりもECサイトでの購入を選ぶなど、消費者の意識と行動が変化しました。各企業では、消費者のニーズに合わせるため、インターネットや電話を使用した非対面型の対応ができるチャットボットの活用を増やしています。
経済産業省が2018年に「DXレポート」や「DX推進ガイドライン」を発表して以降、多くの日本企業がDXに注目しています。PwCコンサルティングが2022年に行った調査では、日本企業の59%がDXに取り組んでいるとわかりました。
問い合わせ対応の自動化や顧客サービス向上などが期待できるチャットボットは、DXのファーストステップとして多くの企業に導入されています。
参照元:日本企業のDX推進実態調査2022|PwCコンサルティング合同会社
チャットボットの仕組み
チャットボットには、大きく分けて2つの仕組みがあります。
- ルールベース型(シナリオ型)チャットボット
- AI型(機械学習型)チャットボット
導入する際は、ユーザーからの問い合わせの性質に合った型を選びましょう。選ぶにあたって大事なのは、ルールベース型・AI型それぞれのメリット・デメリットを踏まえることです。
ルールベース型(シナリオ型)チャットボット
ルールベース型(シナリオ型)チャットボット(以降「ルールベース型」)には、以下のような型の種類があります。
- ログ型
- 選択肢型
- 辞書型
ログ型は、蓄積した会話データから適切に回答します。ユーザーがチャットボットを使うごとに会話データが蓄積されるため、問い合わせるユーザーが多い場合に向いています。
選択肢型は、チャットボットが示す選択肢からユーザーが求めるものを選んでいき、回答までたどり着くタイプです。ただ、選択肢の数は限られるため、ユーザーの質問が限定されている場合に向いています。
辞書型は、単語と、その単語に対応する回答をデータとして登録しておき、単語による問いかけに応じるタイプです。このほか、選択肢型と辞書型が合わさったタイプなどもあります。
ルールベース型は会話の範囲が限定されているのが特徴であり、FAQ・よくある問い合わせへの導入に向いています。デメリットは、複雑な質問や選択肢の多い質問には回答できない点、そしてメンテナンスに手間がかかる点です。
AI型(機械学習型)チャットボット
AI型(機械学習型)チャットボット(以下「AI型」)は、ユーザーの問い合わせや問い合わせへの対応方法を、過去のデータからAI自身が学習して回答する仕組みです。
AI型は、自然言語(人間が話す、または書く言葉)をコンピュータで処理する自然言語処理や、機械学習などの技術を活用しており、より自然で高度な対話を実現します。
AI型は質問者の言葉遣いの違いも読み取れるため、自由記述による質問の受付も可能で、ルールベース型よりも自然な会話に近い形で柔軟に対応できます。ただし、学習の結果として、AIが人間の予期しない回答をするリスクもあるため、運用には注意が必要です。
なお、昨今では、ルールベース型とAI型が合わさったハイブリッド型チャットボットも登場しています。
チャットボットの導入形態
チャットボットを導入する際には、導入形態も検討が必要です。導入形態は、以下の2種類です。
- オンプレミス型
- クラウド型
それぞれにメリット・デメリットがあるほか、導入時に自社で設備を用意するか否かで、セキュリティ面やコスト面にも影響があります。自社の状況や活用したいシーンと照らし合わせ、導入形態を決めましょう。
オンプレミス型
オンプレミス型とは、自社にソフトを設置し運用する形態のチャットボットです。ソフトのセッティングには時間と手間がかかるため、導入費用は高額になります。ただ、ランニングコストはクラウド型と比較して低額なので、長期的に見ればコスト面では有利です。
また、オンプレミス型は保守・メンテナンスが自社で対応可能です。システムのバージョンアップには別途費用がかかりますが、基本的に自社内のネットワークで管理できるため、セキュリティ面に不安がある場合はオンプレミス型での導入が適しています。デメリットは、定期的に整備を要する点です。
クラウド型
クラウド型とは、クラウドサービスを通じてソフトを利用する形態(SaaS)で、企業側でソフトを別途セッティングする必要がありません。インターネット上だけで導入できる利便性があり手間がかからないことから、初期費用が抑えられる点もメリットです。
一方、月額基本料金、従量課金、ライセンス費用などがかかるので、ランニングコストは比較的高額になります。なお、セキュリティ面はベンダーが管理するため、その部分を強化したい場合はオプション料金が必要です。また、通常はカスタマイズできる範囲も限られています。
チャットボットを導入するメリット
チャットボットを導入することで、ユーザーと自社双方に以下のような4つのメリットが生じます。
- 業務の効率化
- 回答品質の均一化
- 24時間365日の対応が可能
- 業務負担・人的コストの軽減
チャットボットは、業務効率化やコスト削減、顧客満足度につながる回答品質といった面で効果を発揮します。
業務の効率化
問い合わせの多くはチャットボットが対応できる内容です。そこで、よくある質問はチャットボットに自動対応させれば、オペレーターは複雑な質問やクレーム対応に専念でき、業務の効率化につながります。
また、オペレーターが対応するとユーザーと1対1で会話を行うため、時間がかかります。商品・サービスへの疑問点などを相談しながら解決したいユーザーもいて、なかなか通話が終わらないケースもあります。しかし、チャットボットなら一度に多くのユーザーに対応でき、その面でも業務効率化が可能です。
回答品質の均一化
オペレーターたちが対応する場合、研修を受けた上で適切な回答を心掛けたとしても、個々の回答の品質にばらつきが出ます。各オペレーターのスキルの差や言葉遣いの些細な違いなどで、同じ内容の回答でも伝わる内容にはニュアンスの違いが生まれるためです。また、ユーザーが回答から受け取るニュアンスにも差が生じます。
一方、チャットボットは回答にブレが生じず、感情にも左右されないため、回答品質を均一化できる点がメリットです。
24時間365日の対応が可能
チャットボットを導入すれば、コールセンターは24時間365日問い合わせに対応できるため、ユーザーはいつでも回答を得られます。また、チャットボットがよくある質問への対応を行うことで、オペレーターの対応件数が減り、コールセンターの課題だった電話の待ち時間の長さが改善されます。
チャットボットでは対応できない問い合わせ内容だった場合でも、チャットボットが速やかにオペレーターにつなぐため、ユーザーは長時間待たされるストレスがありません。問い合わせに対する回答を早々に得られれば、顧客満足度の向上も期待できます。
業務負担・人的コストの軽減
コンタクトセンターで行われている業務には、多くの人材が必要となります。特に重要なのがオペレーターです。問い合わせが絶え間なく寄せられる中でスムーズな対応を進めるために、企業はオペレーターの補填を始めとする人的コストの問題を抱えがちです。
しかし、チャットボットに一定のユーザー対応を任せれば、オペレーターの担当業務が減り、オペレーターを大量に雇用する必要がありません。また、オペレーターの負担が軽減されれば離職率も下がります。このように、チャットボットを導入すればオペレーターの人材不足が解消され、人的コストの削減にもつながります。
チャットボット導入時の注意点と解決策
チャットボットの導入には、以下の2点に注意が必要です。
- チャットボットの運用まで手間がかかる
- 定期的なメンテナンスのため、社内担当者の設置かアウトソーシングを要する
これらへの対応には、運用・人的コストがかかります。費用対効果を検討してから、チャットボットを導入する必要があります。
運用開始まで時間がかかる
チャットボットの導入には、チャットボットの設計、設置場所の選定、シナリオ設定などの構築、運用テストなどさまざまな工程があります。特にAI型を運用するのであれば、データ収集や機械学習を行い、適切な対話を覚えさせなければなりません。導入には、1カ月から3カ月、長ければ半年ほどかかります。
ルールベース型のほうが導入を早められますが、それでも導入までは1カ月以上かかるのが一般的です。導入までの手間や時間も考慮しましょう。
定期的なメンテナンスが必要になる
運用開始後も、チャットボットはデータの収集を続けて回答精度を高める必要があります。特にAI型は、回答を誤学習するなどのトラブルが考えられるため、学習データの定期的なチェックも重要です。また、製品やサービスの変更があれば、回答データの追加や修正も行わなければなりません。
このような定期的なメンテナンスを確実に実施し、チャットボットの回答精度を高め続けるポイントは、チャットボットの導入・整備専門の担当者を用意することです。担当できる社員がいない場合は、アウトソーシングするという手段もあります。
チャットボットの活用例
チャットボットには、さまざまな活用方法があります。ユーザーへの問い合わせ対応はもとより、社内での利用やオペレーター支援、多言語の問い合わせ対応など、業務効率化やユーザーへの適切な情報提供に貢献しています。また、ログ分析を行うことでマーケティングにも役立ち、商品・サービスの改善にも活用可能です。
社内FAQ
チャットボットは、ユーザー対応だけではなく、社内からの問い合わせにも活用されています。たとえば、情報システム部やヘルプデスクなどにチャットボットを導入することで、従業員が不明点を確認する際に電話で問い合わせる必要がなくなります。従業員はチャットボットに問い合わせれば、迅速に回答が得られます。また、電話を受けていた部署も本来の業務に集中できるため、社内全体の業務効率化も可能です。
さらに、チャットボットは社内ナレッジの共有にも活用できます。従来、不明点があれば従業員がマニュアルなどにアクセスし調べる手間がありました。しかし、業務に必要な資料や情報をチャットボットに集約すれば、自動的に必要な情報にたどり着けるため、効率的です。
社外からの問い合わせ対応
社外からの問い合わせへの対応は、チャットボットの代表的な活用法です。簡単な問い合わせはチャットボットに対応させることで、オペレーターの対応頻度が減ります。チャットボットは24時間365日対応できるため、深夜勤務のオペレーターも必要最低限で済みます。人材不足の問題も解決し、採用や新人研修にかかるコストも削減可能です。
さらに、オペレーターがクレーム処理や定型の回答を続ける必要がなくなることから、ストレス軽減にも役立ちます。そのため、オペレーターの離職率が下がる点もメリットです。
オペレーター業務の支援
社外からの問い合わせにオペレーターが対応する場合であっても、チャットボットは活用できます。たとえば、問い合わせ内容をオペレーターがチャットボットに質問し、適切な回答を提示してもらうという活用方法です。
チャットボットは問い合わせ内容をデータとして蓄積しているため、設定したシナリオに沿って、問い合わせに関するデータをオペレーターへ提示できます。回答履歴をチャットボットが提示するといった形でサポートを行えば、オペレーターのスキルや勤務歴に関係なく、迅速かつ一貫した対応が可能です。
問い合わせへの多言語対応
チャットボットには英語、韓国語、中国語など多言語に対応しているものがあります。そうした製品を導入すれば、外国語に対応可能な人材を確保したり、多言語対応のシステムを新たに構築したりする必要がありません。
自動翻訳機能が付いたチャットボットなら、サイトやアプリ経由での外国語での問い合わせにも対応できます。また、外国人観光客が増えている現在、多言語対応のチャットボットを導入すれば売上機会の損失を避けられます。
外国人労働者が増えていることからも、多言語対応のチャットボットは職場研修、行政の問い合わせ窓口、災害時の情報提供など多様な場所・状況で利用可能です。
マーケティングでの活用
チャットボットでは、対応ログを蓄積できます。問い合わせ内容やクレームなどのログを分析すれば、製品・サービスの問題点を把握でき、改善につなげられます。ひいては、顧客満足度の向上も可能です。
また、ログの分析により、クレームや問い合わせの多い内容などから顧客のニーズを把握できます。季節ごとのログを分析することで、トレンドの把握も可能です。ニーズやトレンドを把握できれば、サービス改善はもちろん、そのときどきに応じて最適化されたマーケティングを行えて、顧客満足度や売上の向上につながります。
まとめ
チャットボットは大きく分けると、ルールベース型チャットボットとAI型チャットボットがあります。また、導入形態は、オンプレミス型とクラウド型の2つです。チャットボットの導入には、業務効率化や人的コスト削減などのメリットがあります。一方、導入まで手間や時間がかかる点、定期的なメンテナンスが必要な点はデメリットです。
現在、チャットボットはユーザー対応のほか、社内での問い合わせ対応、オペレーター支援、多言語での問い合わせ対応、マーケティングなどに幅広く活用されています。チャットボットを導入する際には、自社の利用目的や課題解決に適した製品を選ぶことが重要です。
- TOPIC:
- チャットボット/ボイスボット
- 関連キーワード:
- 自動応対システム