コンタクトセンターにおいて「ナレッジマネジメント」の必要性が叫ばれています。ナレッジマネジメントを導入するきっかけはそれぞれのセンターの事情によって異なりますが、課題解決をめざして活動を始めるもののの、本質的な改善につなげられているのは一部に限定されてます。今回はナレッジマネジメントを成功に導くポイントについて解説します。
なぜコンタクトセンターでナレッジマネジメントが求められるのか
かつて1980年代のコールセンターの黎明期においては、電話の繋がりやすさ(応答率)や個々のオペレーターの応対品質が重要視されていました。回答が存在しない未知の問合せ内容やオペレーターの知識不足によって回答不能な問合せについては、エスカレーション対応し、知識のある管理者の属人的な対応によって解決がなされました。結果的に、個々のオペレータの知識レベルや回答内容のばらつきはあまり問題視されず、その人的対応力こそが、センターの力であるという風潮さえありました。
その後、1990年代~2000年代のコンタクトセンター需要の高まりと共に、センター規模の拡大とオペレーターの人数が増えてくると、属人的な対応や回答内容のばらつきが主要な課題として表層化し、時として大きな問題を引き起こす要因になってきました。さらに近年は、CX(カスタマーエクスペリエンス)が重視され、問合せに対して速やかに回答をすること、人による回答内容のぶれを解消しお客様の知りたい情報を提供、問題の解決にタイムリーに貢献することが、企業の提供するサービスやプロダクトの価値の一部になりつつあります。そのため、属人的運用から脱却し、コンタクトセンターに存在するナレッジを管理・整理、最適化し、応対に利用して生産性や品質を高めるという、ナレッジマネジメントのニーズが高まってくるのです。
ナレッジマネジメントという言葉は、1990年代初頭に経営理論として提唱され、組織にとって有効な知識や情報を管理し、新たな知識を生み出し活用する考え方を指しています。カスタマーサポートの先進国である米国では、非営利団体のサービスイノベーションコンソーシアムによって「KCS(ナレッジセンターサービス)」というカスタマーサポートにおけるナレッジマネジメントの方法論として発表され、広く認知されるようになりました。経験や知識のバックグラウンドが異なる多数の人が働き、人の入れ替えがあっても、同じレベルでの回答が求められるコンタクトセンターにおいて、KCSは親和性が高い考え方であり、それを取り入れようとするニーズは増えています。
さらに、労働人口の減少による採用難を背景に、現有戦力の底上げも必要になり、FAQやボットによる自己解決による呼減ニーズも高まっています。ナレッジマネジメントを導入するコンタクトセンターは今後さらに増えると思われ、ナレッジマネジメントは、コンタクトセンターを成功に導くための必要不可欠な取り組みと言えます。
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コンタクトセンターにおけるナレッジマネジメントの現状
コンタクトセンターでのナレッジマネジメントの高まりに対して、現場ではさまざまな取組みを行っていますが、期待したような効果を得られているセンターは一部に限定されており、多くは様々な課題に直面しています。
例えば、以下のようなことが起きているのではないでしょうか。
- 最初にナレッジのコンテンツを整理したものの、放ったらかしでメンテナンスが行われていない
- コンテンツが検索にひっかからないため有識者の知見頼みで、結局は属人的な対応になっている
- 逆に、検索したら同じようなコンテンツが引っ掛かりすぎて、結局どれが最適なナレッジなのか分からない
- ナレッジツールの導入が主目的になっており、肝心なコンテンツが整備されていない
- ナレッジを使いやすく改修しようとするものの、これまでのナレッジ利用に慣れている一部のベテランが反対勢力になって改善が進められない
- ベテランのメンバーは、そもそもナレッジを利用せずに、脳内にある知見だけで対応してしまう
- ナレッジコンテンツに関するフィードバックがされないため、良し悪しや改修ポイントが分からない
このように、ナレッジに関する課題を挙げたらきりがありません。
これらの課題を解決するため、当社ではナレッジマネジメントの導入方法論を用い、計画、分析、設計、構築フェーズに分けて、その標準的な手順に従ってセンターを改革していきます。
ナレッジマネジメントのフレームワークとして、
- コンテンツ
- ナレッジ型運用
- ナレッジチーム
- ナレッジKPI
- ナレッジシステム
によって構成され、それぞれの視点でセンター全体を分析し、課題を俯瞰的に洗い出し、再設計とそれに基づいた適切な改善サイクルを回して段階的に期待効果を導きます。ナレッジマネジメントがうまくいってないセンターは、上記のいずれか、あるいはいずれもが適切に設定されないか、設定されたとしても、適切に運用されていないのです。多くの場合、その要因は複合的なため、それらを一つずつ整理して計画的に改善を行っていくことが求められます。
ナレッジマネジメントの導入や、導入状況の改善については、経験と専門的な知見が必要です。場合によっては外部のコンサルタントに、改善を依頼するセンターも多くあります。その場合も、外部のコンサルタントだけに改善を任せるのではなく、協力し共に考え作業し、最終的には、手法そのものをセンター運営に取り組んで、自走する決意が必要です。
ナレッジマネジメントを最適化するために最初に着手すべきポイント
ナレッジマネジメントの導入には、専門的知識が必要です。内製で、自走のみで改善していく難しさはあるものの、まず手始めに着手できる点について紹介します。
ナレッジマネジメントのフレームワークの内で最も重要なのもは、「コンテンツ」です。KCSの中でも「コンテンツはキング」と言われてます。コンテンツの作成、改善、再利用こそがKCSの中心的な活動であり、短期の改善サイクルと中期の改善サイクルを回して常にそのコンテンツを磨き続けていくことが求められます。
そのコンテンツを適切なものにするには何を行っていくべきでしょうか。まず取り組むべきことは、「コールリーズン分析」をすることです。コールリーズンとは、文字通り「顧客がコンタクトセンターにお問い合わせをする理由」のこと。各センターでは応対履歴管理システム中に、コールリーズンに該当するカテゴリを登録するのが一般的です。それだけでも、問い合わせ傾向はわかるのですが、ナレッジマネジメンへの応用を考えると不十分です。カテゴリをもとにコールリーズンを分析しても、顧客が本当に何を聞きたいのかはわからず、実態を見誤ってしまう可能性が高くなります。なぜならそのカテゴリは、オペレーターが問い合わせを咀嚼し、ポイントを整理した内容に基いて登録されているため、良い表現をすれば人の判断や知恵が入っている、悪い表現をすれば、バイアスがかかった情報であり、実際のコールリーズンとは乖離している可能性があるからです。
真のコールリーズンを把握するには、応対のカテゴリではなく、実際に何を問い合わせ、どういうやり取りをし、どういう回答により解決したかを、包括的に把握し分析することが必要です。伝統的には、重要なやりとりが生じた場合は、なるべくやり取りを省略せずに、応対履歴システムに入力するように促す運用があります。一方でセンターは、AHTの短縮など、生産性の向上も求められているため、どんな場合に、何をどこまで記述するかは、あくまで個人の判断になり、やはり真の顧客の声を分析するのは難しくなります。
この問題を解決するのが、音声認識システムです。音声認識システムによってテキスト化された応対内容を、テキストマイニングツールを使って分析することで、運用に負担をかけずに、真のコールリーズンを分析することができます。音声認識システムでは、全ての応対内容を文字で可視化できるため、そこに含まれる話題をもれなく把握できます。1つの通話の中に複数の話題が含まれていても、それを分離しそれぞれの話題ごとにコールリーズンを分析できるのです。それによって、やり取りに現れたすべの話題に関連するナレッジを最適化できます。
なお本題とは外れますが、リアルタイムの音声認識システムが一般的ですが、一般的に大きな投資が必要です。テキストの分析だけが目的なら、バッチ型音声認識システムの方が、投資は少なくて済みます。また、音声データを取り出し、クラウドサービスをスポット利用することで、システム投資をせずに、音声をテキスト化するサービスもありますので、目的にあった手法を使うようにしてください。
さて、分析によって捉えたコールリーズンごとに、必要なナレッジを整備し、システムに格納して、運用で参照可能にします。今あるマニュアルなどをバラバラに分解し、分類整理し、カテゴリやキーワードで検索・参照できるようにするのです。実際の運用では、問い合わせに対して、解決にどのナレッジが必要なのかを、オペレータが知見にもとづいて判断しており、単純検索が使われる頻度はそれほど高くありません。コールリーズン分析により判明した会話のパターンごとに、検索対象を絞ったり、トークスクリプト形式の親ナレッジを作って、該当するナレッジがリンクで簡単に参照できるようにしたりして、業務との融合を図ります。
包括的にナレッジが参照できるようになったら、次のステップに進みます。コールリーズンを通じて、顧客がどのような言葉を使って質問をするのかわかっていて、その頻度が高い話題に関しては、Q文を抜き出して代表的質問とし、あらかじめA文をひもつけて、いわゆるFAQ形式のナレッジを作成します。また運用の通じて、特定の問い合わせのとき、必ず参照されるナレッジがシステム的に特定できるなら、そのやりとりを分析して、FAQ形式のナレッジを追加します。
FAQナレッジが充実すれば、オペレータは、顧客の言葉を基にナレッジ検索をするため、その言葉に合致するQ文があれば検索精度が高まり、必要な回答に効率よくたどり着くことができるようになります。特に、質問が機能に依存し定番化する傾向があるテクニカルサポートではFAQが有効ですし、その他の業務でも、個人状況に依存しない一般的な問い合わせでは、FAQの効果は高くなります。
コンテンツを整理し、オペレータの検索効率を高めるという活動でFAQが充実してくると、そのコンテンツを公開し、顧客による自己解決を進めることができます。具体的には、外部FAQ、チャットボットやボイスボットなどの自動化ソリューション活用です。顧客がどのような言葉で質問するのかがわかっており、それに対する回答も適切なのですから、外部FAQは、回答の表現さえ見直せば、そのまま公開できます。チャットボットやボイスボットの場合は、FAQの構造をシナリオにしたり、単純検索にしたりして、同様の効果が期待できます。さらにボットの場合は、他システムと連携することで、システム参照情報にもとづいたダイナミックな回答にも応用できます。
コンテンツを最適化していく活動は終わりのないものです、外部環境や自社サービスの変更、顧客のリテラシーの向上、ニーズの変化などによって問合せも変わるため、コンテンツは常に変化する生き物のようなものです。コールリーズン分析を定期的に実施し、分析の手法を型化して、継続的に改善をプロセスのサイクルを回し、コンテンツをメンテナンスし続けていくことが重要です。
まとめ
今やナレッジマネジメントは、内部運営の継続性や効率化の視点からも、外部の利用者のエンゲージメントを高めていく視点からもコンタクトセンターにとって必要不可欠な取り組みとなっています。そのナレッジマネジメントを最適なものにしていくためにはナレッジのフレームワークに基づいて設計をしっかりと行っていくことが重要です。その最初の改善ポイントであるコンテンツを見直すために、応対のテキストに基づいてコールリーズ分析を科学的に行っていくことが、有用な効果に繋がります。
執筆者紹介
Salesforce 認定アドミニストレーター
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