コンタクトセンターのAI戦略
攻めと守りの両立とは?

 2024.05.10  2024.07.05

次世代のコンタクトセンターやCX戦略を検討する上で、AIの活用は不可欠なテーマとなりました。しかしその多くは生産性の向上やデータ活用など、顧客やオペレーターが現場で抱える実際の悩みや要望から遠いテーマとなりつつあります。本ブログではそうしたAIの活用を中心に、「コンタクトセンターの攻めと守りとは?」を皆様と一緒に考えながら、ご紹介していきたいと思います。

コンタクトセンターのAI戦略:攻めと守りの両立とは?

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そのAI導入は目的ですか?手段ですか?

突然ですが皆さん、「目的」と「目標」と「手段」の違いはご存知ですか?目的は「最終的に成し遂げたいゴール」に対し、目標は「ゴールを達成するための指標」です。更に目標を実現するためには「手段」が必要です。例えば「車を買いたい」という目的があるとします。車を買うために「頭金の100万円を貯金する」というのは目標ですね。そして目標を達成するために「外食を控える」や「家計簿をつける」は手段です。この例のように「目的」と「目標」と「手段」を、皆さんは日常生活で特に意識することなく使いこなしています。しかしこれが業務となると途端に順番が入れ替わってしまい、一体自分(やチーム)が何をしたかったのか、どこを目指していたのか分からなくなってしまいます。「目的と手段が入れ替わっていた」なんて言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。

そのAI導入は目的ですか?手段ですか?

さて、筆者が何故このようなことを唐突にお話ししたかといいますと、コンタクトセンターやカスタマーエクスペリエンスの現場ではまさにこのような事が頻発しているのではないかと危惧しているからです。昨今、AIの進化は目覚ましく、様々な分野で既に実践的な技術として活用されています。ことコンタクトセンターの現場においては、慢性的な人手不足を背景にAI技術の導入によるオペレーターの支援や人手不足問題の解消への可能性が早くから議論されてきました。筆者はメーカー営業の立場として、多くのお客様と接しお話しをさせていただく機会がありますが、次世代のコンタクトセンターやカスタマーエクスペリエンスの戦略を検討する上で、「AI活用」は欠かせないテーマとなっていることを日々実感しています。一方で、そうしたお客様にAIをどんなことに使いたいのか?何を目標・目的としているのか?を詳しくお聞きすると明確な答えがなく、「AI活用がテーマだから」や「何となく色んなベンダーが提案してきているから」とか「取り敢えず乗り遅れないために」といった、まさに冒頭お伝えした目的と手段が入れ替わってしまっているケースが多々あるのです。AI導入はあくまで何らかの目的を達成する為の手段であって、それ自体が目的ではないことを忘れてはいけません。

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コンタクトセンター現場の攻めと守りとは?

さて、第一章では少し説教じみたことをお伝えしましたが、第二章ではコンタクトセンターにおける「攻めと守り」について考えてみたいと思います。筆者はアメリンフットボール(アメフト)観戦が好きなのですが、アメフトの魅力は何といっても選手個々の特色によってオフェンス(攻め)とディフェンス(守り)の専門チームに分かれ、それぞれが与えられた役割を遂行しチームを成功に導く、まさにチームワークにあるといえます。「オフェンスとディフェンスを両立させることがチームを勝利に導く」というのはアメフトをはじめとした様々なスポーツだけではなくビジネス全般、そしてコンタクトセンターの現場と運営にも共通したテーマではないでしょうか。例えば、優れたCX(Customer Experience:顧客体験価値)を提供する企業、つまりオフェンス力が高い企業があるとします。一方でこの企業はCX向上のみを追求するあまり、従業員に無理を強いてしまいオペレーターやスーパーバイザーは疲弊し、結果として非常にディフェンス力が低いチームとなってしまいました。従業員が誇りを持ち快適に今の環境に満足して働く、つまり高いEX(Employee Experience:従業員体験価値)が体現出来なければ、いつかチームは崩壊しやがては特技であったCXも崩れてしまいます。このように攻めと守りを両立できないコンタクトセンターは収益性や成長性にネガティブな影響を与え、それが更にEXやCXに悪影響を及ぼす、まさに負のスパイラルに陥ってしまいます。こうしたCXとEXの高い相関関係については、30年以上前から「サービス・プロフィット・チェーン」という概念として提唱されておりますが、私はより身近な言葉として「攻めと守りの両立」と読み替えています。次章ではこの攻めと守りについてより詳細にお話ししていきます。

コンタクトセンター現場の攻めと守りとは?

コンタクトセンターの攻め

まずコンタクトセンターの「攻め」について考えていきたいと思います。コロナ禍を背景とした消費行動の変化により、多くのサービスは「所有型(買い切り)」から「利用型(サブスクリプション)」にシフトしています。「利用型」になることは企業にとって安定した収益性や新規ユーザーの獲得が期待できるといったメリットがある一方で、リスクも伴います。「利用型」は「所有型」と比較し、他のサービスに乗り換えるための費用(チェンジコスト)が低い傾向にあります。そのため、少しでもサービスの品質が落ちたり、満足度の高い顧客体験を提供できなければ、せっかく獲得したユーザーが簡単に他社に乗り換えてしまいます。ある調査※1では消費者の約6割が、2回以上の品質が低い企業とのやり取りが続いた場合、そのサービスを見限るといった結果が出ています。(※1、Experience is Everything: Here's how to Get it Right, PWC)大げさではなく、サブスク時代はCXが企業の生死を分けるといっても過言では有りません。

  1. 真のオムニチャネル化
    こうした購買行動の変化を背景に、多くの企業のコンタクトセンターが「オムニチャネル化」といった名目でデジタルチャネルを拡充し「CX向上」を目標と掲げていますが、システム的な観点では実は複数のコンタクトチャネルをそれぞれ独立したシステムで運用しているため、一貫した顧客体験を提供できていないケースが大半を占めています。例えばメールで問い合わせをしたユーザーが、問題解決がしなかったため、後日「メールで問い合わせをした件ですが・・・」とコンタクトセンターに電話をしても、統合されていないシステムではオペレーターは前後のやり取りを察知することが出来ず、「本日はどのようなご要件ですか?」と会話をスタートさせなければなりません。結果として、カスタマージャーニーが断片化し、顧客は顧客接点ごとに不満を蓄積してしまいます。そして、いずれかのフェーズで企業離れに至ります。
  2. 一気通貫型のサービス提供
    企業側もチャネルごとに情報がサイロ化しているため、ユーザーの離反理由の追跡も不可能に近くなります。このようなリスクを低減するためには、本当の意味でのオムニチャネル化はもちろん、無人のサービス(セルフサービス)やコンタクトセンターの更に先にいる専門家や営業チーム、バックオフィスも含めた一気通貫型のサービス提供が必要となります。これらをテクノロジーに当てはめると「CPaaS(Communication Platform as a Service)」、「CCaaS(Contact Center as a Service)」、「UCaaS(Unified Communication as a Service)」と異なるため、企業は各サービス毎にそれぞれ準備しなければなりません。

コンタクトセンターの攻め 01

シスコは複数のチャネルを同一のサービス上で利用することができ、更にチャット/ボイスボット、会話のテキスト化※2や要約化※3といった最新のAI活用も可能なCCaaS「Webex Contact Center」を中心に、セルフサービスをより簡単により身近に提供可能なCPaaS「Webex Connect」、そしてバックオフィスに必要な機能を満載した世界規模最大規模のUCaaS「Webex Calling」、これらをフルラインナップで揃えています。これらのサービスは全てWebexのプラットフォームからクラウドとして提供されますので、利用者は同一のエクスペリエンスで一気通貫型のサービスを利用することが出来ます。これらを実現できる企業の高いコミュニケーション能力は、CXの向上=コンタクトセンターのオフェンス力(攻め)の向上に寄与することが期待出来ます。(※2/3:2024年後半以降提供予定 )

コンタクトセンターの攻め 02

コンタクトセンターの守り

第四章ではコンタクトセンターの「守り」について考えていきたいと思います。第二章でお伝えした通り、従業員満足度の低下は「守り=ディフェンス力」の低下であり、やがてはCXの低下を招き、最終的に企業は負のスパイラルに陥ってしまうことをお話ししました。従来より他業種と比較し離職率が高く人材不足が深刻な課題であるコンタクトセンターの現場は、特にこの傾向が顕著です。高い離職率や定着率の低さは、即座に応答率やサービスレベルといったコンタクトセンターのKPIに影響し、やがては顧客の離反を招きます。

  1. 燃え尽き症候群の予防機能
    常に高いストレスと向き合うコンタクトセンターのオペレーターにとって「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は離職の大きな理由のひとつです。Webex Contact Centerは、AIによる「燃え尽き症候群検知」機能を提供予定です。クレームなど難易度の高い問い合わせやストレスの蓄積を検知し、応対後のオペレーターに対して「休憩時間の自動取得」や「心身にヒーリング効果のある動画や音楽を流す」といった、任意のメンタルケア施策を実行可能です。これまではスーパーバイザーの経験則にだけ頼っていた部分に、AIによる定量的な判断を取り入れることで、早期フォローを実現可能です。
    コンタクトセンターの守り 01
  2. 公正な評価機能
    また、ある調査では日本のコンタクトセンターの離職理由の第一位は「人間関係」であるといわれています。オペレーターへの公平な評価の実施は、スーパーバイザーや同僚との関係性など、人間関係の構築において非常に重要なテーマです。従来の評価はスーパーバイザーや管理者による人間的な視点が主な指標ですが、AIによる科学的な視点により公正・公平な評価が期待できます。Webex Contact CenterではAIを活用し、こうしたオペレーターの評価はもちろんのこと、改善ポイントの提案まで行うことが可能です。※ (※2024年後半以降提供予定)
    コンタクトセンターの守り 02

画面イメージ

最終的にサービスを提供するのはコンタクトセンターのオペレーターやスーパーバイザーといった現場を支える人々であり、これまで我々はそうした現場の方の努力に支えられて様々なサービスを受けることが出来ました。しかし、予測される生産年齢人口の減少や働き方や雇用形態の多様化など、こうした努力だけではどうにもならない時代がやがて訪れると考えるべきでしょう。このような状況を踏まえると、コンタクトセンターの「守り」であるEXの向上も、今後の企業にとって生命線であるといえます。

まとめ

ここまでお読み頂きありがとうございます。AIの導入と活用はあくまで手段であり、決してそれ自体が目的ではありません。そして高いチームワークで成功へと導くには攻めだけではなく、守りもバランスよく提供することが非常に重要です。最新の技術を手段として上手く活用しながら、働く人もサービスを受ける人も快適に過ごせる社会、そんな未来に少しでも貢献出来ればと思います!
ぜひお気軽にこちらよりお問い合わせください。

執筆者紹介

柳原 照憲 氏
柳原 照憲 氏
シスコシステムズ合同会社 コラボレーションアーキテクチャ事業
CX営業部 部長

2021年3月、コンタクトセンター製品のセールスリーダー(Webex Customer Experience Sales Lead, Japan)として入社。新卒でCiscoの代理店営業としてユニファイドコミュニケーションの販売に携わり、音声系インフラの奥深さを実感。前職では外資系メーカーのハイタッチとして、金融業界やインフラ業界向けにコンタクトセンター製品やユニファイドコミュニケーション製品の提案・販売に約10年間従事。人と人を安心して繋ぎ、そしてより良いカスタマーエクスペリエンスを提供出来るコンタクトセンターの情報を発信していきたいと考えています。
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